研究課題
本研究の三年度目にあたる2017年度は、(1)これまでの研究成果として、2015年度に実施した国際シンポジウムの成果であるプロシーディング集 "How Do Biomedicines Shape Peoole's Lives, Socialities and Landscapes?" を編集・出版した。それに加えて、(2)近年注目を集めている人類学におけるいわゆる「存在論的転回」に関する文献研究を行い、物や複数種のエージェンシーに注目するアプローチの感染症についての人類学的研究の応用可能性について論考を出版した。また、(3)ガーナ南部のカカオ農村地帯におけるマラリア対策についての追加調査を実施した。文献研究では、ポストプルーラルという概念を中心に検討することで、社会人類学の伝統に依拠する文化についての研究と科学技術論の影響を受けた自然についての研究の差異と関連性について検討し、両者の多様な接続のあり方を模索した。これにより、人工的なものと自然のものが交差する領域で展開する感染症について検討する新しい視座が開けつつある。現地調査では、マラリア対策の一環としても重視され、すべての住民が行うべきとされる家屋の周囲の雑草取りが、土壌流出の一因となることが認識されることによって、軋轢や葛藤が起きていることが分かった。これは、ひとつの領域に対する複数の働きかけが相互に矛盾する状況の一例と見なしうる状況であり、本課題の主要テーマの一つである統治実践の複数性とも関連している。この点については、引き続き、情報を収集すると共に歴史的な経緯についても検討を進めていく。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の成果として、国際シンポジウムのプロシーディング集を出版できたことは重要なステップを踏めたと考えている。また、人類学における近年の理論的動向についてレビュー論文を発表できたことで、本研究課題について単一の事例を越えた視野を持つことができたことも当初の計画にはない大きな進展と言える。その一方で、ガーナ南部のカカオ農村地帯についてのマラリア対策の現状については、まだ得られていない情報も多く、最終年度に更なる調査を行う必要がある。
本研究課題の最終年度となる次年度は、これまでの調査や文献研究を整理し、感染症についての人類学的研究を展開するための包括的な理論的な枠組みを明確にしていくとともに、マラリア対策を中心に、これまでの現地調査で十分に明らかにできていないことや、不足している情報の収集を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 図書 (1件)
立命館生存学研究
巻: vol. 1 ページ: 21-31
How Do Biomedicines Shape People's Lives, Socialities and Landscapes?, Senri Ethnological Report 143
巻: Senri Ethnological Report 143 ページ: 141-161