研究課題/領域番号 |
15H05394
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
木村 めぐみ 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師 (50711579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イノベーション / 創造性 / デザイン / 知識 / イメージ / 言語 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、芸術・人文学的知識が製造業など、他産業のイノベーションにもたらす効果・役割に関する概念枠組みを構築することを目的に研究を進めた。具体的には、Throsby (2001)の「文化的価値」の構成要素(美的価値/精神的価値/社会的価値/歴史的価値/象徴的価値/本物の価値)と研究方法(図式化/厚い記述/態度分析/内容分析/専門的鑑定)を中心に、延岡(2011)の意味的価値など、技術経営の文脈における同様の議論との接点を探求することによって、芸術・人文学的知識の役割を整理・検討した。方法としては、マツダ等の企業でのインタビュー調査から、多様な研究分野における人の視点・思考・実践の違いとその要因を探求した。また、(A)科学、テクノロジー、経済および、(B)技芸、 芸術、文化領域の研究者や企業、その従業者、フリーランスへの聞き取り調査を重ねた。 (A)と(B)に属する人々に対する調査及び定量的調査を行うことも予定していたが、研究の進捗状況を鑑み、断念した。 結果として、当初計画していた内容では、「二つの文化」つまり、(A)科学、テクノロジー、経済、 (B)技芸、 芸術、文化領域の違いを整理するにとどまり、本質的な議論を行うことが難しいと判断した。そのため、新たに、「二つの文化」を超えた概念として表現という行為を位置付け、(1)人や組織に知識を創造させる意識と、(2)意識と知識を共創させる知性と感性についての資源とプロセスについての概念的枠組みとして提示することにした。言語、知識、イメージに関する先行研究を整理し、それぞれの構造と創造プロセスについての議論を援用した。そうすることによって、知識創造企業論では論点になっていなかった、知識の内容や質についての議論が可能になることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度までに、芸術・人文学的知識が製造業など、他産業のイノベーションにもたらす効果・役割に関する概念枠組みとして、質の高い知識を創造し、イノベーションを実現して、競争優位を確立できる人や組織の意識と、意識と知識を共創させる知性と感性についての内容とプロセスに関する分析単位を明らかにすることができた。既存の創造性研究に対して、英国の「クリエイティブ産業」政策が求める創造性の違いも整理することができた。したがって、芸術人文学並びに社会科学の違いの整理と、その融合による新しい議論が可能な基盤は整備できたと考えている。平成28年までの課題は、概念的枠組みを構築することであったが、その過程において、事例分析と定量調査の可能性についても検討していたため、、平成29年度以降の研究の準備も進めることができた。ただし、研究成果の公表は十分には出来ていないため、平成29年度以降は、積極的に成果の公表も行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、平成28年度までに行った、芸術・人文学理論のイノベーション研究への貢献に関する調査分析の内容を積極的に公表する。本研究で援用している芸術・人文学理論の重要な知見のうち、イメージの構造や受容と連関のプロセスに関する理論は、一部の分野では、インパクトも大きかったものの、十分な実証分析が行われているわけではないため、その妥当性を検証する必要性が大いに残されている。既存の創造性研究やデザイン研究に対する本研究の貢献を明確にする。英国の「クリエイティブ産業」政策による、大学や産業の変化に関する実態調査は、平成29年度も引き続き行い、一般的にはイノベーションの研究や議論が科学技術や経済経営の文脈の議論にとどまる日本において、英国の展開がいかなる効果・影響を及ぼすのかを検討する。英国の場合は、それが工業社会とは異なる知識社会に対応するための条件を示唆する展開であったことから、具体的に、日本企業にはいかなる貢献が可能であるかを整理・検討する。また、計画通り、平成28年度までの成果に基づき、過去に「イノベーションを実現した」と言われるような事例の分析や、企業や省庁等の従業員等への定量調査を行う。
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