研究課題/領域番号 |
15H05394
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
木村 めぐみ 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師 (50711579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イノベーション / デザイン / 知識 / 情報 / クリエイティブ産業 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、これまでの研究に限界と矛盾を発見したため、研究の方針の変更を行なった。しかし、年度終了までに、この問題を解決し、これまでのイノベーションの議論を場所中心に考える概念的枠組みを構築し、ブレア政権以降の英国の政府、産業、大学における変化を歴史的、社会的に検討した。 これまでは、英国における芸術・人文学の研究や教育が解決しようとしている問題が、自然科学、社会科学、芸術人文学といった学問分野の違いにあると考えていたが、実際には、進歩した技術の性質の変化に対応する人材を育成する方法であることがわかった。また、蒸気機関、電気、量子、そして情報へと技術の性質が変化する事によって、最も大きな変化を求められている場所が、科学や芸術の設備を設け、近代化を推進してきた政府や産業、大学であることが明らかになった。平成29年度の研究を通じて、これまで調査を行なってきた英国で起きている変化は、産業革命に先立つ啓蒙の時代を推進した知識観を問題化し、その限界や矛盾を解決する動きであることもわかった。 そのため、イノベーション研究における重要概念である、「創造的破壊」の背後にあったと考えられるニーチェの思想、アンリ・ベルクソン(1907)の『創造的進化』やマルティン・ハイデッガーのいう形而上学の破壊の議論を通じて、イノベーションが実現される場所についての概念的枠組みを構築した。より具体的には、イノベーションを実現したという社会的言説を伴う人や組織だけに体験される現象を「創造的転回」と名付け、組織や地域、コミュニティなどの場所における人とその仕事中心の議論が可能な枠組みを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、上半期には、これまでの研究の限界と矛盾に直面したが、後期には、問題点が解決された。 英国の歴史、政策、産業における変化の事例を通じて、平成29年度は、この検討をワーキングペーパーとしてまとめ、公開した。英国における政府、産業、大学の知識交流やイノベーション教育についての調査も続けて行なったことにより、近年の「デザイン」をめぐる議論の変化の背景として、英国では、啓蒙の時代以来の知識改革が進んでいることを明らかにした。また、Schumpeter (1939)のいう「観察者の合理性」がイノベーションについての研究においても指摘できることがわかった。 平成29年度には、「クリエイティブ産業」に含まれる産業のデータの収集を行うこともできたため、今後は、その現状を整理し、公開に向けて準備を進める。日本においては、この概念が導入された意図がほとんど理解されていないものの、クリエイティブ産業は、「創造的転回」を最も観察しやすい産業であると考えられる。 クリエイティブ産業をめぐる政策は、情報社会における働き方改革とも言えるビジョンや戦略であるため、平成29年度には、働き方改革に成功したと言われる日本企業の事例研究も行なった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の方針の変化に伴い、予定されていた事例分析と定量調査は、その方法を再度検討する必要がある。本研究の根幹とも言える概念的枠組みを構築することができたため、平成30年度は、天才と言われてきた人や、イノベーションを実現したという社会的言説を伴う、人とその仕事、その場所に焦点をあてた事例研究や定量調査を再設計し、実施する。 また、平成29年度までに収集した「クリエイティブ産業」についてのデータを整理し、ウェブサイトを設ける事によって公開する。この分野は、経済学的な分析がほとんど進んでいないことが問題視されてきたため、このデータを広く公開する事によって、この分野の今後の研究を促進することができると考えられる。「クリエイティブ産業」は、情報産業における働き方改革やハラスメント問題の根源としての知識の問題について検討する上でも重要なフィールドであるため、引き続き、情報産業と製造業における働き方の変化に関する事例研究も行う。
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