本研究では社会的認知及び関連要因の発達的変化とその個人差を追跡し、自閉症との関連も含めた検討をすすめている。 今年度も引き続き、これまでに本研究にご協力下さってきた研究参加者(定型発達児・自閉症児)に対して、社会的認知発達及び関連要因に関する実験課題や発達検査、質問紙調査を実施した。その上で、他者とのやり取りにおいて幼児はどの点に注目しているのかについて主にデータをまとめた。具体的には、以下の2点をまとめた。①他者の行為を観察して学習する模倣行為について、因果関係がない行為であっても模倣してしまう現象が知られる。しかし、提示された行為全てを模倣しているわけではなく、対象物の機能に関わる場合や行為の目的が分かりにくい場合であれば、因果関係のない行為を模倣していることが分かった。②自閉症児が苦手とされる誤信念理解において、その関連能力を調べた。先行研究において自閉症児が同じく苦手とする心理的因果の理解に加え、因果関係の理解そのものが影響する可能性を考慮し、物理的因果と行動的因果の理解も調べた。その結果、いずれも個人差が認められ、横断的には、因果関係全般をよく理解している子どもの方が誤信念理解をよく示すという相関があることが分かった。しかし、誤信念をまだ理解しない子どもを対象に縦断的にその発達を追跡したとき、心理的因果をよく理解していた子どもは5ヶ月後、誤信念を理解するようになった。一方、物理的因果や行動的因果の理解では誤信念理解の発達を予測しなかった。このことから、領域を問わない全般的な因果関係の理解ではなく、心理的因果の理解のみが後の誤信念理解を予測する先駆体であることを明らかにした。これらの知見は、学会ならびに論文で公表した。
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