研究課題/領域番号 |
15H05407
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 貞茂 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90743980)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超伝導 / アンドレーエフ反射 / アンドレーエフ束縛状態 / マヨラナ粒子 / ヘリカル状態 / 量子化伝導度プラトー |
研究実績の概要 |
半導体ナノ構造中での超伝導近接効果は、近年マヨラナ粒子の実現の提案が行われたこともあり、非常に注目を集めている。本研究では、この半導体ナノ構造と超伝導体との接合系における超伝導輸送現象に関して、電流位相関係の実証と、それを基礎とした新奇トポロジカル粒子の実証を目標としている。 これらの目標に向け、まず共同研究先であるカリフォルニア大学から高移動度InAs量子井戸基板の提供を受け、その微細加工技術の開発を行った。その結果、電子線描画を用いて、目的の構造である量子細線の幅を100 nmまで狭くすることが可能な技術を開発した。この技術を用いて作製した200 nm幅の量子細線を低温磁場下において電気輸送測定を行った。その結果、ゲート電圧の掃引に対して伝導度がプラトー構造を持ち、そのプラトーでの伝導度が無磁場にもかかわらず0.5×2e^2/hにあらわれることが明らかとなった。さらに、面内磁場の印加により、このプラトー伝導度が減少していくことを発見した。この現象は多体効果に起因したものであると考えられる。 さらに、上記の高移動度InAs量子井戸に対して超伝導電極との接合を作製し、低温での輸送測定を行った。その結果、無磁場においてアンドレーエフ反射による伝導度の増強が起きていることを確認した。 また、自己形成InAs量子細線の実験においては、高品質な量子細線の物性の探索を行うため、細線が宙吊りになっているデバイス構造の作製を行った。このデバイスの測定をした結果、磁場の印加により伝導度プラトーに凹みがあらわれることがわかった。このプラトーの凹みは量子細線中にマヨラナ粒子を実現するための必要条件であるヘリカル状態の兆候である。 さらに、並列二重ナノ細線デバイスを作製し、並列二重ナノ細線中にできている二重量子ドットの特性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、電流位相関係の実証とそれを用いたマヨラナ粒子の実証に焦点を置いている。まず、電流位相関係に関しては、高移動度InAs量子井戸の量子細線への加工技術の確立が終わり、その技術を用いて量子細線への超伝導接合が作製できていることがアンドレーエフ反射による伝導度の増強の確認によりわかっている。これらの技術、および特性は電流位相関係の実証に必要不可欠なものであり、この技術が確立されたことは本研究の目標の達成にとって有意義である。 また、自己形成InAsナノ細線を用いた実験では、ヘリカル状態の兆候の観測に成功している。このヘリカル状態に対して超伝導接合を作製するとマヨラナ粒子が実現されるため、本研究計画のマヨラナ粒子の実証にむけ、大きな前進である。 加えて、新たな知見として半整数での量子化伝導度プラトーの観測と、異常な磁場依存性が初めて明らかになった。これらの現象は、我々の使用している量子井戸の電子密度が低いことによる多体効果起因のものであると考えられる。この結果は、これまで起源が明らかになっていない0.7異常や0.5異常と呼ばれる量子細線に普遍的な問題に対して新たな実験的研究結果をもたらすため、非常に有意義なものである。 さらに、並列二重ナノ細線で実現される二重量子ドットの特性の評価を行ったが、この結果はクーパー対分離など、この特殊な構造における超伝導現象の観測に用いることができるだけでなく、超伝導干渉素子としても使用でき、電流位相関係の実証にも応用できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、電流位相関係の実証に関して、微細加工の簡単化と超伝導接合のより一層の高品質化をおこなうため、InAs量子井戸上にエピタキシャルに超伝導体が成長された基板を共同研究先であるカリフォルニア大学から提供してもらい、この基板から超伝導-量子細線の接合デバイスの作製技術の確立と作製したデバイスの測定を行う。これにより、当初計画していたデバイスよりも、より高品質のデバイスの実現が行えるだけでなく、さまざまな超伝導現象の電流位相関係の実証を行っていくことができる。今後はまず、この基板を用いた超伝導-量子細線の接合デバイスにおける超伝導電流位相関係の実証を目指す。 次に、自己形成InAsナノ細線に関しては、マヨラナ粒子の実現のため、超伝導体とナノ細線の接合を作製し、そこでの超伝導輸送現象の磁場依存性を測定する。 その際、より高品質なナノ細線デバイスの実現が必要となるが、基板としてグラフェンの実験などで使用されているh-BN基板を用いるなど、より一層の高品質化の方法を探る。さらに、並列二重ナノ細線デバイスと超伝導体との接合系を実現し、異なるナノ細線へのクーパー対分離現象の観測を試みる。 加えて、新奇に提案されているマヨラナ粒子の実現方法の可能性の探索のため、超伝導体と量子ホール状態との接合における輸送特性の研究と、そのスピン依存性に関する研究も行っていく。
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