研究課題
本研究の目的は、カーボンナノチューブ、グラフェン、原子層状半導体に代表される極限的に「細い、薄い」ナノ物質の人工的複合化により、ナノ物質固有の物性を凌駕する圧倒的に優れた創発量子物性を発現させ、その応用学理を開拓することである。本年度の特筆すべき研究成果として、本研究の対象物質の1つである擬1次元ナノチューブ中に0次元様の状態を有する0次元-1次元複合化カーボンナノチューブにおいて、当初予想していなかった新たな光現象「アップコンバージョン発光」が生じることを見いだし、そのメカニズムの解明も含めていち早く原著論文を発表したことが挙げられる。この研究成果は、「ナノ物質の人工的複合化により、ナノ物質固有の物性を凌駕する優れた創発量子物性を発現する」、という本研究のコンセプトを体現する極めて重要な成果と言える。埋め込まれた0次元状態の数を増加させることで更なるアップコンバージョン発光強度の増強が可能であることを示すことにも成功しており、生体透過性の高い近赤外光領域において、生体組織深部のイメージングを低コストで行う新たな発光イメージング手法の確立に繋がる可能性を見いだしている。もう1つの研究対象物質系である原子層ナノ物質の人工積層構造における新奇創発物性については、異種の原子層物質の重ね合わせによる新たな発光ピークの出現などを見いだしたところであり、こちらも本研究の方針の有効性を示唆するものと考えられ、引き続き研究を進めていく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
現在までに、上記のとおり、擬1次元ナノチューブ中に0次元様の状態を有する0次元-1次元複合化カーボンナノチューブにおいて、当初予想していなかった新たな光現象「アップコンバージョン発光」の発現を見いだしている。アップコンバージョン発光の創発は当初計画には無かったものであるが、明らかにナノチューブ固有の物性を凌駕する、しかも実用上有用な光機能の創発という本研究のコンセプトに極めて良く合致するものであり、この点については、当初の予想以上の成果が出ていると考えている。一方、当初計画における数を1つに制限した0次元状態を研究については、単一カーボンナノチューブレベルの研究を進めた結果、超音波分散等により意図せずに導入される0次元状態の数が平均して1本のナノチューブに1つ以下であることを突き止めている。原子層ナノ物質の人工積層構造については、いくつかの試料の作製に成功し、光学スペクトルの測定を行うところまで来ている。これらの状況から、当初計画分は概ね順調に進展しており、さらに予定外の重要な成果が得られたことから、進展状況を、当初の計画以上、とした。
28年度は、0次元-1次元複合化カーボンナノチューブに関する当初計画と並行して、27年度に見いだされた新たな光機能「アップコンバージョン発光」の研究を推進していく予定である。こちらについては、生体試料イメージングへの応用を視野に入れ、実際の生体組織に0次元-1次元複合化カーボンナノチューブを導入し、実際にアップコンバージョン発光イメージングが可能であることを実証する予定である。原子層物質の複合構造については、27年度までに確立した積層構造作製技術を用いて、温度可変条件下で光物性及び輸送特性の測定を行うことで、創発的物性変調・新物性発現の探索を進める予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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