研究課題
無機ナノ結晶は、サイズ、形状、表面の構造などによって、性質が大きく変化することがよく知られている。現在でも、これらを制御することによって、新しい機能を実現しようとする研究は盛んに行われており、電子材料・触媒・磁性材料・医療材料などの多岐の分野に広がりを見せている。本研究では、電気伝導性の金属ナノ結晶をポリマーフィルムに組織化させる手法について検討した。本年度は始めに、銀ナノ粒子と銀ナノワイヤーの合成を行った。銀ナノ粒子は、試行錯誤を重ね、弱く吸着する有機分子で粒子表面を保護した。アルカンチオールは比較的強く金属の表面に吸着するが、合成した銀ナノ粒子は液相に浸すと、吸着分子が表面から脱着し、バルクの金属に変化した。このとき、電気伝導率は最大で10^4 S/cm程度を示し、良好な電気伝導性が得られた。また、銀ナノワイヤーは、ポリオール法を改良し、アスペクト比を制御した。合成した銀ナノワイヤーは類似の電気伝導率(10^4 S/cm)を示す事を確認した。次に、異種のポリマーとモノマーを溶解させた溶液に銀ナノワイヤーを分散させ、モノマーを光重合してフィルムを作製した。重合反応に伴って、混合系は二相に分離するが、このとき、銀ナノワイヤーは片方の相に選択的に濃縮されることが分かった。また、反応の条件によって、海島構造や共連続構造が現れ、相構造によってフィルムの電気伝導率は変化した。現在は、フィルムの電気伝導率を高めるために、様々な実験条件において研究に取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、銀ナノ粒子と銀ナノワイヤーの合成を行った。銀ナノ粒子は、液相で銀錯体を化学的に還元する方法を基盤にして合成した。研究初期では、銀ナノ粒子がうまく生成しない時期もあったが、試行錯誤を重ねた結果、研究の目的に合致した銀ナノ粒子の合成方法を作り上げることができた。銀ナノワイヤーは、予定した通り、反応条件を調節することでアスペクト比を変化させる事ができた。高分子混合系は、銀ナノワイヤーの表面に吸着しているPVPとの親和性を考慮し、適切なポリマーとモノマーのペアを選定した。その結果、混合系の相分離を経て、片方の相に選択的に銀ナノワイヤーを濃縮させる事ができた。相構造の設計は、これまでの研究でまとめた、重合条件と相分離構造の対応表を参照することで効率的に進めた。
現在までに得られたフィルムのシート抵抗は一番低いものでも1000 ohm/sqと高く、電気伝導性に乏しい。電子顕微鏡を用いて、フィルム断面を観察したところ、フィルムの内部と比較して、表面に存在する銀ナノワイヤーの量が少ないことが分かっている。このことから、フィルム表面から内部への電子の移動が、フィルム全体に流れる電流の律速段階になっていることが予想された。そのため、今後は、基質の表面改質やフィルムのプラズマエッチングを行って、電気伝導性を高めたい。また、相分離以外の方法で金属ナノ結晶を組織化させる方法についても、多角的に検討していく。
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Advanced Materials Interfaces
巻: 2 ページ: 1500354
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Langmuir
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