研究課題/領域番号 |
15H05411
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
谷口 貴章 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (50583415)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化グラフェン / 電気化学デバイス / グラフェン / イオン伝導 |
研究実績の概要 |
今年度は酸化グラフェンを固体電解質、還元型酸化グラフェンを電極としたオール酸化グラフェン燃料電池の開発に成功した。作製手法はまず酸化グラフェン膜(膜厚数10μm)を酸化グラフェン分散液の濾過により作製する。さらに、両面に対し紫外光照射を施すことにより膜表面は還元された電子伝導性還元体、内部は紫外光と未反応の酸化グラフェン膜(プロトン伝導体)からなる電極電解質一体型(MEA構造)のスーパーキャパシタ構造を作製した。光照射により還元された表面層は光吸収が大きいため、光化学反応は表面に限定される。実際、この酸化グラフェンMEAはスーパーキャパシタとして機能することも確認した。本手法で得られるスーパーキャパシタのエネルギー密度: 1.1 × 10-4 Wh、出力密度: 0.12 W cm-3である。 また、印加電圧が1.5V以上の場合、酸化グラフェン官能基のレドックス反応も見られ、このMEAは電池として機能することを明らかにした。レドックス反応の起源については現在検討中であるが、ヒドロキシル基とカルボニル基の変換反応である可能性が高い。実用化に向け解決すべき問題は多くあるが、今年度開発したオール酸化グラフェンデバイスは充電電圧によりスーパーキャパシタ・電池とその充放電メカニズムが可変な新規な電気化学エネルギーデバイスであると言える。また、酸化グラフェンのプロトン伝導についてSPM観察によりその起源について解析中である。ただし、酸化グラフェンはsp2構造とsp3構造が入り乱れた構造であり、AFMを用いた原子分解能観察は現状では困難である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は酸化グラフェンのプロトン伝導の起源の解明とエネルギーデバイスへの応用を目指している。エネルギーデバイスへの応用については、燃料電池の他、スーパーキャパシタや電池用の固体電解質として応用可能であることを実証することができた。現状、燃料電池、スーパーキャパシタ、電池と3種のエネルギーデバイスの作製に成功している。これらのデバイス開発を通し、酸化グラフェンとその還元体における酸素官能基の組成、構造、電気化学反応についての理解が進み、デバイス性能向上に向けた新たな技術の開発、新たな酸化グラフェンデバイス創出にむけた重要な知見がえられた。 メカニズム解明としては、酸化グラフェンナノ粒子の合成に成功し、カルボキシル基もプロトンホッピングサイトになることを明らかにすることができた。本課題申請時はベーサル面上のエポキシ基が主なホッピングサイトとなると予想したが、エッジに存在するカルボキシル基もプロトン伝導に対し活性であることが分かったため、当初計画していたナノポア化や垂直配向化以外に、ナノ酸化グラフェン化等新しい性能向上アプローチが見出された。以上より本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
プロトン伝導の起源を明らかにするため。AFMをベースとしたプローブ顕微鏡技術により活性サイトの原子分解能観察について試みてきたが、酸化グラフェンはsp2とsp3が混在した乱れた構造を有しており原子分解能観察は現状困難である。そこで最終年度は、ナノスケールに目標分解能を下げた観察を行う。ここでは、形状観察に加えて、電流観察、表面電位観察、摩擦観察等、蛍光観察等を用いた多角的な物性評価をナノスケール空間分解で行い。酸素官能基やsp2領域の物性的役割を明らかにする。 応用としては酸化グラフェンを固体電解質とした燃料電池、スーパーキャパシタ、電池の試作に成功しているが、これらの性能は実用デバイスに比べて数桁低い。そこで性能向上のため、電極/電解質界面の制御技術の開発を推進する。特に、酸化グラフェン還元体を電極、酸化グラフェンを固体電解質としたオール酸化グラフェン型デバイスを中心に開発を進める。電極としては電気化学処理による疑似容量の制御や窒素ドープによる触媒活性化、固体電解質としては、当初から計画している酸化グラフェンシートの垂直配向化やナノポア化に加えて、酸化グラファンナノ粒子との複合化も本課題を通し新たなアプローチとして採用する。
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