研究課題/領域番号 |
15H05413
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 康雄 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40581963)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 3次元アトムプローブ / 透過電子顕微鏡 / ナノワイヤ / 量子構造 / 半導体 |
研究実績の概要 |
将来実用的な半導体量子デバイス構造の候補としてナノワイヤ素子が注目されている。この素子において、不純物添加時に導入される結晶欠陥が電気的特性に与える影響を理解するためには、ドーパントと欠陥の空間的な位置関係を明確にする必要がある。 本研究では、最新のナノワイヤ構造に着目し、原子レベルの位置分解能で元素の実空間分布を得る3次元アトムプローブと透過電子顕微鏡を同一の試料に適用して、ドーパント-欠陥の位置関係をサブナノスケールで明らかにするとともに、予め得た電気的特性との因果関係を明らかにすることを目的とする。これにより単一ナノワイヤ中のドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にすることができ、ドーパント位置制御に繋がる重要な知見や指導原理を得ようとするものである。 本年度(初年度)は、3次元アトムプローブ測定に適したサイズのゲルマニウム-ホウ素添加シリコン(開発段階のコア-シェル構造)のナノワイヤに着目した。まず、この単一のナノワイヤを集束イオンビーム装置のマニピュレータを用いて1本ずつ拾い上げ、3次元アトムプローブ測定試料台に設置する手法を確立した。次に、3次元アトムプローブ測定条件の最適化を図り、予備的な結果であるがナノワイヤを構成するシリコン・ゲルマニウム・添加ホウ素(ドーパント)の実空間分布を得ることに成功した(論文発表準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、単一に電気的特性評価したナノワイヤに対して、3次元アトムプローブ法と透過電子顕微鏡観察を適用し、ドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にする。ここでは現在開発段階のゲルマニウム-ホウ素添加シリコン系のコア-シェル構造を持つナノワイヤに着目した。平成27年度中に、研究支援としてナノワイヤの育成や専門知識を持つ深田直樹博士((国研)物質・材料研究機構)、固体材料中のナノ組織解析技術のノウハウを持つ永井康介教授と井上耕治准教授(東北大学金属材料研究所)、多量の3次元データ取得においては大学院生の協力を得る体制を整えた。具体的に以下の4点の順に実験を推進できた。 1)ゲルマニウム-ホウ素添加シリコンのコア-シェル構造のナノワイヤを設計した。この段階では、ナノワイヤ径(50~100 nm程度)・ドーパント量(3次元アトムプローブ検出下限:1E18 cm-3)などを考慮する必要がある。この条件を満たすよう、化学気相堆積法を用いて、3次元アトムプローブ法に適用しうる多量のナノワイヤ試料を作製した。 2)高精度な集束イオンビーム装置のマニピュレータを駆使して、ナノワイヤを1本ずつ拾い上げて3次元アトムプローブ用の試料台に垂直に設置する技術ノウハウを蓄積した。 3)マニピュレータを用いて設置したナノワイヤに対して、ホウ素(ドーパント)・シリコン・ゲルマニウムの実空間分布を得るべく3次元アトムプローブ測定条件の最適化を行った。ナノワイヤ試料の先端から原子を1個ずつ剥ぎ取るための測定条件(パルスレーザー強度、レーザー周波数、イオンの蒸発速度、試料温度など)を設定できた。 4)ナノワイヤ試料の組成分析の高精度化に向けて、分析チャンバーの残留ガス分析装置を導入した。これにより、残留するバックグラウンドノイズを精度良く定量化し、微量ドーパントの感度向上を図れるよう設備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で最も重要な点は、単一のナノワイヤ(ここでは開発中のゲルマニウム-ホウ素添加シリコン系のコア-シェル構造に着目)に対して、ドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にすることである。これまで、3次元アトムプローブ法を用いて、ナノワイヤを構成元素の実空間分布を得てドーパントの挙動を明らかにしてきた。今後(平成28年度以降)は、具体的に以下の2点に焦点を当てて実験を推進する。 1)3次元アトムプローブ用の試料準備および測定の最適化[継続] 平成27年度中に予備的な結果を得たが、統計精度を上げるための多量なデータ取得までは至っていない。さらに継続して、集束イオンビームを用いた試料準備方法の最適化、透過電子顕微鏡による3次元結晶欠陥分布観察のための測定条件の最適化、3次元アトムプローブ測定の最適化を並行して実施し、特定のナノワイヤ素子から歩留まり良くドーパント分布を得る。また、平成27年度に3次元アトムプローブ装置に導入した残留ガス分析装置を用いて、残留するバックグラウンドノイズを精度良く定量化し、微量ドーパントの感度向上を図る。 2)結晶欠陥とドーパント分布の相互作用の解明 ここまで得られたデータを鑑み、個々のナノワイヤ素子に対応する局所的な結晶欠陥(転位・双晶界面など)と微量ドーパント(ホウ素)分布の位置関係を明確にして、その相互作用を明らかにする。そして、単一のナノワイヤに対して3次元アトムプローブと透過電子顕微鏡を適用してドーパントと欠陥分布を直接対応させる新しい実験体系を構築する。一定の成果が得られた段階で、結果を取りまとめて学会・論文発表を行う予定である。
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