研究課題
将来実用的な半導体量子デバイス構造の候補としてナノワイヤ素子が注目されている。この素子において、不純物添加時に導入される結晶欠陥が電気的特性に与える影響を理解するためには、ドーパントと欠陥の空間的な位置関係を明確にする必要がある。本研究では、最新のナノワイヤ構造に着目し、原子レベルの位置分解能で元素の実空間分布を得る3次元アトムプローブと透過電子顕微鏡を同一の試料に適用して、ドーパント-欠陥の位置関係をサブナノスケールで明らかにするとともに、予め得た電気的特性との因果関係を明らかにすることを目的とする。これにより単一ナノワイヤ中のドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にすることができ、ドーパント位置制御に繋がる重要な知見や指導原理を得ようとするものである。本年度は、3次元アトムプローブ測定に適したサイズのゲルマニウム-ホウ素添加シリコン(開発段階のコア-シェル構造)のナノワイヤを対象に、この単一のナノワイヤを集束イオンビーム装置のマニピュレータを用いて1本ずつ拾い上げ、効率良く3次元アトムプローブ測定試料台に設置する手法を確立した。最適な3次元アトムプローブ測定条件を見出し、ナノワイヤを構成するシリコン・ゲルマニウム・添加ホウ素の実空間分布を得た。平成27年度に導入した残留ガス分析装置を用いて、3次元アトムプローブ測定中に分析チャンバー内に残留するバックグラウンドノイズの精度良く定量化し、微量ドーパントの感度向上を図った。これまでの成果はNanoscale誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、単一に電気的特性評価したナノワイヤに対して、3次元アトムプローブ法と透過電子顕微鏡観察を適用し、ドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にする。ここでは現在開発段階のゲルマニウム-ホウ素添加シリコン系のコア-シェル構造を持つナノワイヤに着目した。平成27-28年度に、研究支援としてナノワイヤの育成や専門知識を持つ深田直樹博士((国研)物質・材料研究機構)、固体材料中のナノ組織解析技術のノウハウを持つ永井康介教授と井上耕治准教授(東北大学金属材料研究所)、多量の3次元データ取得においては大学院生の協力を得る体制を整えており、具体的に以下の2点に焦点を当てて実験を推進できた。1)3次元アトムプローブ用の試料準備および測定の最適化平成27年度に予備的な結果を得たが、統計精度を上げるためのデータ取得までは至っていない。さらに継続して、集束イオンビームを用いた試料準備方法の最適化、透過電子顕微鏡による3次元結晶欠陥分布観察のための測定条件の最適化、3次元アトムプローブ測定の最適化を並行して実施し、特定のナノワイヤ素子から歩留まり良くドーパント分布を得た。また、3次元アトムプローブ装置に導入した残留ガス分析装置を用いて、残留するバックグラウンドノイズを精度良く定量化し、微量ドーパントの感度向上を図った。2)結晶欠陥とドーパント分布の相互作用の解明ここまで得られたデータを鑑み、局所的な結晶欠陥と微量ドーパント分布の位置関係を明確にする方法を確立しつつある。平成28年度の段階で成果をまとめることができ、Nanoscale誌への掲載に至った。
本研究課題で最も重要な点は、単一のナノワイヤ(ここでは開発中のゲルマニウム-ホウ素添加シリコン系のコア-シェル構造に着目)に対して、ドーパント-欠陥-電気的特性の三者の関係を明確にすることである。これまで、3次元アトムプローブ法を用いて、ナノワイヤを構成元素の実空間分布を得てドーパントの挙動を明らかにしてきた。最終年度(平成29年度)は、具体的に以下の2点に焦点を当てて実験を推進する。1)3次元アトムプローブ用の試料準備および測定[平成28年度より継続]集束イオンビームを用いた試料準備、透過電子顕微鏡による結晶欠陥分布観察、3次元アトムプローブ測定および詳細な解析を実施する。平成28年度までに予備的な結果を得ることができたが、さらに統計精度を上げるためのデータ取得を目指し、特定のナノワイヤ素子から歩留まり良くドーパント分布を得る。また、3次元アトムプローブ装置に搭載した残留ガス分析装置(平成27年度に購入)を用いて、残留するバックグラウンドノイズを精度良く定量化し、微量ドーパントの感度向上を図る。2)結晶欠陥とドーパント分布の相互作用の解明ここまで得られたデータの解析結果を鑑み、個々のナノワイヤ素子に対応する局所的な結晶欠陥(転位・双晶界面など)と微量ドーパント分布の位置関係を明確にして、その相互作用を明らかにする。そして、単一のナノワイヤに対して3次元アトムプローブと透過電子顕微鏡を適用してドーパントと欠陥分布を直接対応させる新しい実験体系を構築する。一定の成果が得られた段階で結果を取りまとめ、外部発表を行う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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