研究課題/領域番号 |
15H05415
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊野 浩介 東北大学, 工学研究科, 助教 (00509739)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電気化学分析 / バイオ計測 / バイオMEMS / マイクロ・ナノ化学 / 微小電極アレイ / 細胞解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、マイクロナノ空間内の分子拡散と電気化学反応の制御により、トランジスタのような働きをする“分子電気化学スイッチ素子”を開発する。これは、一般的なスイッチ素子であるトランジスタとは異なる概念に基づくスイッチ素子である。このスイッチング素子の性能評価とこの素子を組み込んだ電気化学デバイス作製を実施し、バイオアッセイに向けた新規電気化学イメージングを検討する特に細胞活性を可視することで、創薬研究や再生医療への応用を示す。 該当年度では、分子電気化学スイッチ素子の1つであるレドックスサイクルに基づくスイッチング素子を開発した。レドックスサイクルとは、2組の電極間で測定対象物が酸化・還元反応を繰り返す現象であり、シグナル増幅とスイッチングに利用できることを申請者は明らかにしている。レドックスサイクルによるシグナル増幅は電極間距離に大きく依存しており、該当年度では高感度化を目指してナノ流路を介して電極を配置した素子を開発した。これにより、単純なセンサよりも100倍以上のシグナル増幅を達成した。また、スイッチング素子としての機能を確認した。この素子を組み込んだデバイスを作製し、胚性幹細胞の分化評価を達成した。この結果はLab on a Chip誌のinside coverを飾った。 また、2組の電極が電気化学反応で物質を消費することを、スイッチオン、オフとして利用することで、スイッチングを実現した素子を開発した。このスイッチング素子では、溶液中の溶存酸素を利用しており、センサ上の溶存酸素を計測できる。開発したスイッチング素子の基礎的評価を実施したところ、スイッチング素子としての機能を有していることを確認した。続いて、この素子を組み込んだデバイスを開発し、ガン細胞塊の呼吸活性評価を実施した。この結果はSensors and Actuators B: Chemical誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
該当年度では、「分子電気化学スイッチ素子の開発」と「デバイス開発」、「バイオイメージング」を実施した。開発初期段階では、目的とするバイオサンプルの計測を行うためには感度が不十分であることが判明したため、繰越申請を行ったが、この繰越による研究において、COMSOLによる反応物質の拡散や電気化学反応のシミュレーションを行い、デバイスの改良に成功した。この結果はマイクロナノ化学デバイスにおけるトップジャーナルであるLab on a Chip誌のinside coverを飾っており、このことからインパクトが大きい研究成果を発信できたと言える。したがって、おおむね順調に研究は進展していると言える。このようにデバイス開発は順調に進行しているが、細胞機能評価においては新たな検討が必要になっている。例えば、細胞株のロット間の違いによって、得られる結果の再現性が良くない点である。具体的には、間葉系幹細胞はロット間によって細胞増殖、分化、酵素発現が大きく異なることが判明した。したがって、今後は再現性確保のための実験を大きく実施する必要がある。 上記した計測システム以外にも新しい原理に基づく電気化学計測システムを提案した。具体的には電極サイズと2進法に基づくシグナル分離システムである。シグナル分離をスイッチングの1つして見なすことで、多数の電気化学センサを1つの作用電極上に配置できる。この基本的アイディアは該当年度に考案させ、該当年度の次年度にデバイス作製・機能評価を実施した。この結果は次年度の成果であるがElectrochemistry Communications誌に掲載された。このように新しいアイディアに基づくセンサを開発しており、この点からも、おおむね順調に研究は進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
該当年度が終了した時点で様々なセンサの開発に成功し、学術論文や学会発表で成果を公表している。今後は細胞機能解析に関する研究を主に実施し、細胞機能に関する研究成果を発信する。例えば、間葉系幹細胞などの幹細胞の分化評価を電気化学的に実施する。間葉系幹細胞は骨細胞に分化し、その細胞の酵素活性を電気化学的計測できるかを検討する。ハイドロキシアパタイトなどの様々な培養基材上での培養が、この細胞にどのような影響を与えるかを、開発したセンサで評価する。 これまでは、細胞株を用いたバイオイメージングを実施してきたが、初代培養細胞の評価を実施し、開発したセンサの資料応用の検討を進める。具体的には、マウスやラットなどの肝臓細胞やその3次元培養組織を評価する。これらの細胞を得るためと、開発したセンサ応用を進めるために、医学部との共同研究を検討する。 センサデバイス上での細胞培養を実施するため、バイオ材料のセンサ修飾を検討する。インクジェットやコンタクトプリンティング、光露光など様々な手法が挙げられるが、本研究では、電気化学手技を利用した方法を検討する。これにより、細胞・組織培養と、機能評価を実現できる電気化学デバイスとして、本デバイスを完成させる。 また、従来の電気化学バイオイメージングの時間分解や空間分解能、感度、コストの比較を行い、開発した測定システムの特徴を示す。分子電気化学スイッチ素子の体系化を行い、本研究を完成させる。
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