研究課題/領域番号 |
15H05416
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石田 忠 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (80517607)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液体セル / 電子顕微鏡 / マイクロ流路 / 培養チャンバ |
研究実績の概要 |
液中に存在する細菌を生きた状態で電子顕微鏡観察するための技術開発として、細菌に培養液を供給するためのマイクロ流路付液体セルと電子顕微鏡試料室内に培養環境を構築するための電子顕微鏡用培養チャンバに関する要素技術の開発を行った。 培養液を供給するためのマイクロ流路付液体セルに関しては、シリコンチッ化膜の電子線透過膜とジメチルポリシロキサン(PDMS)の接合技術とPDMS製マイクロ流路と電子線透過膜を接合後に電子線透過膜を破らずに培養液を送液する技術を開発した。接合のためには、エキシマランプでシリコンチッ化膜とPDMS を紫外線照射して表面を活性化し、接触した状態で加熱することで、これらを接合することに成功した。その際、PDMS製マイクロ流路に犠牲層を成膜し、接合時にシリコンチッ化膜にPDMSが接合しないようにし、接合後にエタノールで犠牲層を除去することでマイクロ流路を有する液体セルを製作した。製作した液体セルに送液したところ、シリコンチッ化膜を破ることなく液体を循環させることに成功した。 電子顕微鏡試料室内における培養環境の構築に関しては、電子顕微鏡用培養チャンバに不可欠な温度制御、光照射、ガス供給、培養液供給の機能を実装した。温度制御のためには培養チャンバ内にヒーターと熱電対を実装し、10時間にわたり一定温度を保つことに成功した。光照射はLEDを培養チャンバに実装し、光合成細菌が光合成するのに不可欠な光強度を確保した。ガス供給と培養液供給に関しては、それぞれを導入するための4本のチューブを培養チャンバに実装した。これらにより、電子顕微鏡試料室内に培養環境を実現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、液中に存在する細菌を生きた状態で電子顕微鏡観察するための、技術開発を行うことである。昨年度は本研究の要素技術となる「マイクロ流路付液体セルの開発」と「電子顕微鏡内部の細菌培養システム」を開発することを完了した。当初計画においては、まず電子線ダメージを低減することを計画していたが、電子線ダメージの評価を行うためには、液体セルを細菌の培養環境に配置し、細菌を培養した状態で電子顕微鏡観察するための要素技術を先立って開発する必要があった。そのために必要な2つの要素技術を繰り上げて開発したことで、本年度以降の研究開発をスムーズに進めることが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに開発した細菌に培養液を供給するためのマイクロ流路付液体セルと電子顕微鏡試料室内に培養環境を構築するための電子顕微鏡用培養チャンバを実装し、細菌の短時間の動態観察を行う。さらに細菌の、元素分布の時間変化を取得するために、エネルギー分散型X線分析を電子顕微鏡に装着する。これにより元素分布を正確に調べることが可能となる。これにより、細菌の形状と元素分布を調べられるようになる。
また、長時間にわたる細菌の動態変化を観察・分析するには、長時間にわたる電子線照射による細菌へのダメージを考慮する必要がある。細菌への電子線ダメージを低減するため、電子線の低加速電圧化、電子線照射に伴う発熱・帯電の低減、そして短時間電子線照射を試みる。電子線の低加速電圧化においては、電子線透過膜であるシリコンチッ化膜をさらに薄膜化するとともに、透過率の高い材料を用いた薄膜を用いる。電子線照射に伴う発熱・帯電を低減するために、電子線透過膜に金属電極をパターニングし、細菌に溜まった熱や電荷を迅速に散逸することを試みる。短時間電子線照射は高感度反射電子検出器を開発することで、微弱な反射電子を検出可能とし、短時間の電子線照射でも鮮明な画像の取得を可能とする。
これらを実現することで、細菌の動態変化を調べることが可能となる。細菌の形態変化と元素分布変化を長時間にわたり観察し、従来見つけることができなかった新たな現象を調べることを目指す。
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