研究課題/領域番号 |
15H05417
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
龍崎 奏 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (60625333)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノポアデバイス |
研究実績の概要 |
本研究では、低アスペクトナノポアデバイスをコア技術とし、溶液中に浮遊している生体物質の「3次元形状分布解析法」の技術開発と原理構築を目的としている。具体的には、エクソソーム(細胞分泌顆粒)を低アスペクトナノポアに通過させ、ナノポアを流れるイオン電流の変化からエクソソームの「3次元形状分布」を1 ~35 nmの空間分解能で解析を行う。がん細胞由来のエクソソームは、正常細胞から分泌された物に比べ、「粒径分布」や「形状分布」が異なる。そのため、「3次元形状分布解析法」を開発することで、エクソソームをがんマーカーとした新しいがん検査デバイスの実現を目指している。
本年度は低アスペクト窒化シリコンナノポアデバイスを作製し、数種類のエクソソームの形状解析を試みた。具体的には、厚さ35 nm、直径200 nmの窒化シリコンナノポアを微細加工技術により作製し、「大腸ガン細胞」「肝臓がん細胞」「乳がん細胞」由来のエクソソームをそれぞれTEバッファーに分散させた後、電気泳動によって、エクソソームをナノポアに通過させた。その際に得られるナノポア内のイオン電流変化から、エクソソームの粒径分布および形状分布解析を行った。その結果、粒径(短軸長)分布はいずれも近い値を示し、粒径による識別は困難であったが、形状分布ではいずれも異なる分布を示し、形状分布からエクソソームの識別が可能であることを明らかにした。
また、超低アスペクトナノポアデバイスとし、TEMによってグラフェンにナノポアを作製し、それをPDMSのマイクロ流路と組み合わせることでグラフェンナノポアデバイスの作製に成功した。さらに、ナノポア通過物質の表面電荷がイオン電流変化にどのような影響を及ぼすのか実験的に検証を行うため、表面電荷だけが異なる数種類の金微粒子の合成にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、低アスペクトナノポアデバイスを用いることでエクソソームの形状解析に成功し、さらに形状分布からエクソソームの識別に成功している。この成果により、血液検査などの非侵襲的検査によってガンを検出できる可能性を見出している。 超低アスペクトナノポアデバイスとしてグラフェンナノポアデバイスの作製にも成功している。また、表面電荷だけが異なる金微粒子の合成にも成功し、ナノポア通過物質(検体)の表面電荷がイオン電流に及ぼす影響についても明らかになってきている。 以上の理由から、本研究はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実際の血液サンプルを用いた実験を行う。これまでは、培養サンプルを用いていたため、今後は実際の患者から提供して頂く血液からエクソソームを取り出し、粒径分布や形状分布を健常者とのそれと比較することで、より応用研究を見据えた実験を行う。 また、グラフェンナノポアデバイスにおける問題はデバイスの歩留まりと実験の難しさである。そのため、デバイスの作製プロセスや実験手順を見直すことで歩留まりを改善し、グラフェンナノポアデバイスの基礎特性を表面電荷だけが異なる数種類の金微粒子を用いて評価する。 最終的に本デバイスの識別精度を定量評価し、本デバイスをコア技術としたガン検査デバイスの実用化に向けた指針を示す。
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