研究課題/領域番号 |
15H05421
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
川原村 敏幸 高知工科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (00512021)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミストCVD / コランダム型結晶構造金属酸化物薄膜物性値特定 / 溶媒雰囲気反応場における反応解析 |
研究実績の概要 |
申請者らが開発を行ってきた大気圧下で大面積に亘り均一で原子レベルで高品質な機能薄膜作製手法「ミストCVD」は、環境負荷を減らせる次世代技術として大きく期待されている。本研究ではA. 酸化物量子発光デバイス作製への挑戦と、B. 高度な反応制御技術の挑戦的開発の両側面から、産業化に足るレベルまでミストCVDの技術レベルを向上させる事が目的である。 A. 酸化物量子発光デバイス作製への挑戦 ミストCVDによりサファイア基板と格子整合系にあるコランダム型結晶構造のFe, Ga, In等の金属酸化物薄膜を作製し、酸化物量子発光デバイスの作製が目的である。ミストCVDでサファイア基板上に作製したα-Ga2O3、rh-In2O3、α-Fe2O3薄膜やそれらの積層膜等の光学特性を東北大学(秩父・小島先生)にて評価した。また、α-Ga2O3薄膜の結晶性の実験再現性を阻害させている要因を突き止め、成膜条件や装置仕様を見直した。これらの成果の一部は、AWAD 2015(招待講演)、ICNSNT-2015、2015 MRS Fall Meeting & Exhibitにて報告した。加えて、以前から作製してきたSnをドープしたα-Ga2O3薄膜を活性層に持つスイッチング素子(MESFET)に関する論文を執筆した B. 高度な反応制御技術の挑戦的開発 ミストCVDの従来手法とは異なる特殊な溶媒雰囲気反応場における反応過程を解明し、高度に反応を制御するための手段を確立することが目的である。本研究を遂行するため、溶媒を供給する為の小型のミスト噴霧器を設計・導入し、熱重量測定・示差熱分析(TG-DTA)装置を選定・導入した。また、TG-DTAの炉内を溶媒雰囲気にするためのミストガス流入治具を設計し導入した。比較のため、Air中での出発原料の反応過程がどのようになっているかについて検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. 酸化物量子発光デバイス作製への挑戦 ミストCVDで作製したコランダム型結晶構造金属酸化物薄膜の物性値を特定するため、光学的な評価を昨年度中に進めている。一方、高品質な結晶膜作製の再現性がなかったり、膜中への不純物の混入が明らかとなり、装置構成や成膜条件を見直している。従来0.7 mm厚の基板を利用していたが、昨年度は伝熱効率や機材節約を考え0.3 mm厚の基板に変更した。0.3 mm厚の基板は研磨や加工時の負荷及び急激な熱変化に弱いのか基板の状態が安定しないようで、その上に形成するα-Ga2O3薄膜の結晶性にも影響しているようである。またXPS測定によりミストCVDで作製した薄膜中に含まれる不純物を調査したところ、装置に利用しているシリコーン樹脂の構成元素(Si)が大量に取り込まれていることが判明した。これらの結果から、サファイア基板の厚みを0.5 mmに変更し、装置もシリコーン樹脂を用いる必要の無い仕様に設計し直し、現在α-Ga2O3薄膜の結晶性の再現検証を進めている。材料の物性を特定するためには高品質で高純度な薄膜を用いて特性評価を行う必要がある。今回の装置構成及び成膜条件の見直しにより作製された薄膜は、より理想に近い物性の評価ができると考える。 B. 高度な反応制御技術の挑戦的開発 昨年度中に、装置(TG-DTA)の導入を完了し溶媒雰囲気下での反応解析実験ができるようにしたかったが、申請者が装置購入の手続き方法を良く理解しておらず、装置導入が年度末になってしまった。既に一般のガスに関しては実験を行っている。また、溶媒雰囲気下での反応過程解析のためには多少の調整は必要であるが、装置一式導入済みであり、いつでも実験が開始できる状況である。現在は反応後に排出されるガス成分の分析をするためGC-MS装置との接合や排ガスの排出場所などについて検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
A. 酸化物量子発光デバイス作製への挑戦 α-Ga2O3薄膜の結晶性の実験再現性を阻害させている要因である成膜条件や装置仕様を見直し、高品質なコランダム型結晶構造の金属酸化物薄膜を作製し直す。また、この作製し直したコランダム型結晶構造の金属酸化物薄膜の光学特性評価を改めて行う。また、基板との格子の不整合から生じる歪みや欠陥の発生を低減させるため、バッファ層の導入を行い各種金属酸化物薄膜の高品質化を試みる。この時、従来から行われている格子整合系にある材料を低温で成膜する低温バッファ層を利用する方法の他、分子間力膜を利用する方法も検証する。分子間力薄膜は共有及びイオン結合結晶とは異なり、グラフェン等と同様ファンデルワールス(vdW)力を介して積層する層状(2D)物質であり、層界面には結合手が存在せず材料間の格子不整合が影響しない可能性が示唆される。これらの手法を利用して、歪みや欠陥の少ない薄膜の成長プロセスを開発する。評価には、XRDによる結晶構造評価、XPSによる結合状態評価、SIMSによる薄膜内残留不純物評価、CL等光学特性評価による欠陥の評価をすすめる。上記歪み・欠陥低減技術を用いて、試験的に量子井戸やダブルへテロ構造を作製し評価を行う。これらの結果をフィードバックし、薄膜の高品質化・デバイスの高効率化に努める。 B. 高度な反応制御技術の挑戦的開発 導入したTG-DTA装置を、溶媒雰囲気下で運転することが可能な仕様に仕上げ、ミストCVDの反応炉内条件に類似した反応場での原料の熱分解過程の調査を開始する。これらの結果を踏まえ反応を活性化するための手懸かりを見出す。
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