研究課題
H27年度はエキシトントランジスタの実現に向け,(ZnO)x(InN)1-xの高品質結晶成長を行った.成果は以下の2点に集約される.1.「不純物添加結晶化法」による高品質 (ZnO)x(InN)1-xの作製と新規結晶成長モードの発見研究代表者オリジナル技術である「不純物添加結晶化(IMC)法」により,結晶性・表面平坦性に優れたナノ結晶(ZnO)x(InN)1-xをサファイア基板(格子不整合~18%)上に作製することに成功した.また,上記IMC法を用いると,格子不整合系のヘテロエピタキシャル成長において,結晶成長が3次元島状成長から2次元成長へ移行する新しい結晶成長モードをとることを発見した.上記成長様式をとるメカニズムについては,定性的に次のように考えられる.まず,固溶度が低い不純物が導入されると,結晶成長が阻害されることより極微細な結晶粒が高密度に形成され,粒界での歪み緩和が生じる.これにより,歪みエネルギーの蓄積による転位発生が抑制され,完全度の高いナノ結晶粒からなるエピタキシャル膜が形成される.その後,不純物の導入を停止することで,ナノ結晶粒を起点にした2次元成長が開始する.今後は,上記結晶成長モードを利用し,サファイア基板上への単結晶(ZnO)x(InN)1-xの作製を試みる.2. フラックス制御スパッタリングによる(ZnO)x(InN)1-xの高品質成膜:(ZnO)x(InN)1-xの高い結晶完全性を得るためには,上述の単結晶成長技術に加え,化学組成の精密制御が必須である.H27年度は,気相中でのラジカル密度の絶対値計測を行い,酸素原子・窒素原子供給量を精緻に制御することで,化学量論組成を有する(ZnO)x(InN)1-xを実現した.具体的には,真空紫外吸収分光法により成膜雰囲気中の酸素・窒素原子密度の絶対密度を計測するとともに,プラズマ中の発光分光分析を行い,酸素・窒素原子の生成レートおよびそれらの膜成長表面での反応確立を導出することで化学組成の精密制御を実現した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,半導体中の電子・正孔対「エキシトン」をキャリアとする新原理の光スイッチ「エキシトントランジスタ」を新材料(ZnO)x(InN)1-xにより創出することを目的とし,1)高精度フラックス制御スパッタリングによる(ZnO)x(InN)1-xの高品質成膜, 2)エキシトントランジスタの動作実証, 2)エキシトン輸送メカニズム解明,の3項目について研究を行っている。研究代表者が独自に考案した「不純物添加結晶化(IMC)法」と,「フラックス制御スパッタリング」により,現在までに項目1)を達成している。さらに,格子不整合系のヘテロエピタキシャル成長において,結晶成長が3次元島状成長から2次元成長へ移行する新しい結晶成長様式を見出し,高格子不整合基板上においても高品質単結晶成長が可能であることを示した.H28年度以降は,項目1)で得られた高品質(ZnO)x(InN)1-x膜からなる歪み量子井戸を形成し,エキシトン流の生成ならびにスイッチング動作実証を行うことで,項目2および3の早期達成を目指す.
H28年度は,格子不整合基板上への(ZnO)x(InN)1-x単結晶成長と,(ZnO)x(InN)1-x歪み量子井戸におけるエキシトン流生成およびその制御に注力する.具体的な研究方法は以下の通りである.まずH27 年度に引き続き,サファイア基板(格子不整合~18%)上への高品質結晶成長を行う.(ZnO)x(InN)1-xは熱平衡下では合成不可能であり,単結晶基板は存在しない.そこで本研究では,上述の不純物添加結晶化(IMC)法を用いてサファイア基板上にナノ結晶粒からなるエピタキシャル膜を形成し,これをバッファー層とすることで(ZnO)x(InN)1-xの単結晶成長を行う.H27年度に既に結晶性・表面平坦性に優れたナノ結晶(ZnO)x(InN)1-xをサファイア基板上に作製することに成功しており,H28年度は上記ナノ結晶粒を起点にした2次元成長を行うことで,単結晶(ZnO)x(InN)1-xを作製する.次に,単結晶(ZnO)x(InN)1-xからなる量子井戸構造を作製し,井戸層にてエキシトン流の生成を試みる.エキシトン流の生成は,ソース領域にレーザー光をスポット照射することで行う.エキシトンの輸送は,ソース-ドレイン間に電圧を印加し(電界は膜面に対して垂直の向き),エキシトンの双極子ポテンシャルに勾配を与えることで行う.高いエキシトン生成効率を得るためには,井戸層や障壁層のバンドギャップ,井戸層幅,障壁層幅等を最適化する必要があるが,その組み合わせは無限大である.本研究ではコンビナトリアルスパッタ装置を用いて,組成・膜厚傾斜を有する薄膜を一枚の基板上に形成し,これを量子井戸の井戸層に用いて一括で評価することで,最適な組み合わせを早期に獲得する.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 2件、 査読あり 17件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 11件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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