研究課題/領域番号 |
15H05431
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
板垣 奈穂 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (60579100)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プラズマエレクトロニクス / スパッタリング / 結晶成長 / ZION / エキシトントランジスタ / 逆SKモード |
研究実績の概要 |
H28年度はエキシトントランジスタの実現に向け,代表者発見の新規結晶成長モード「逆SKモード」による(ZnO)x(InN)1-x(以下ZION)の単結晶成長と,得られた単結晶ZION膜からのフォトルミネッセンス測定を行った.成果は以下の2点に集約される. 1. 新規結晶薄膜成長モード「逆SKモード」によるZION単結晶成長 H27年度までに,各構成元素の供給量を高精度に制御する「高精度フラックス制御スパッタリング」装置を開発し,化学量論組成を有する低欠陥ZION膜の作製に成功した.H28年度は,さらに代表者発見の新規結晶成長モード「逆SKモード」を利用することで,サファイア基板上へのZION膜の単結晶成長を行った.格子不整合度の大きいヘテロエピタキシーでは,従来,SKモードとVW モードの2つの結晶薄膜成長モードが報告されているが,どちらのモードにおいても最終的に3次元島状成長となるため,単結晶膜の作製は困難である.代表者が発見した「逆SKモード」は,SKモードとは逆に,結晶薄膜成長が3次元島状成長から2次元成長に遷移するモードである.この逆SKモードを用いることで,サファイア基板上へのZION単結晶成長を実現した. 2. ZIONからのフォトルミッセンス観測 エキシトントランジスタ動作実証のためには,レーザ照射によるエキシトン生成と,エキシトン再結合よる発光の観測が不可欠である.H27年度は,ZION井戸層がZnO障壁層に対してコヒーレント成長した量子井戸を形成し,光照射によりエキシトンが生成されることを示唆する結果を得た.本年度は,上述の「高精度フラックス制御スパッタリング」ならびに「逆SKモード」を利用した,ZnO障壁層上へのZIONの高品質単結晶成長を行い,ZIONからの強い青色ならびに緑色発光を観測することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,半導体中の電子・正孔対「エキシトン」をキャリアとする新原理の光スイッチ「エキシトントランジスタ」を新材料(ZnO)x(InN)1-xにより創出することを目的とし,1)高精度フラックス制御スパッタリングによる(ZnO)x(InN)1-xの高品質成膜, 2)エキシトン流の生成・制御,3)エキシトントランジスタの動作実証,の3項目について研究を行っている.研究代表者が見出した新規結晶成長モード「逆SKモード」と,「フラックス制御スパッタリング」により,現在までに項目1)を達成している.さらに,ZION井戸層がZnO障壁層に対してコヒーレント成長した量子井戸を形成し,光照射によるエキシトンの生成ならびに,再結合によるフォトルミネッセンス(強い青色,緑色発光)の観測に成功した.H29年度以降は,上述の量子井戸を用いてトランジスタを作製し,エキシトン流の生成ならびにスイッチング動作実証を行うことで,室温動作型エキシトントランジスタの早期実現を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は,上述の新規結晶成長モード「逆SKモード」とこれまでに開発した「高精度フラックス制御スパッタリング」を用いて化学量論組成を有するZION単結晶膜を形成し,これを井戸層とする歪み量子井戸を形成する.また上記量子井戸をチャネルとしたトランジスタを作製し,ソース-ドレイン間におけるエキシトン流の生成・制御を行う.具体的な研究方法は以下の通りである. 1. ZION歪み量子井戸の形成 まず,サファイア基板上に逆SKモードを利用してZnOの単結晶膜を形成し,それを障壁層とする.次にZION単結晶膜をZnO障壁層に対してコヒーレント成長させることで,歪み量子井戸構造を作製する.このとき,化学量論組成(ZnO)x(InN)1-xからの組成ずれが発生すると,欠陥生成による格子緩和が生じる.これを防ぐため,上述の「高精度フラックス制御スパッタリング」と,研究協力者が有するラジカル密度の絶対値計測技術を用いて化学量論組成からなるZION膜を形成し,歪み量子井戸を実現する. 2.エキシトン流の生成・制御 エキシトン流の生成は,ソース領域にレーザー光をスポット照射することで行う.エキシトンの輸送は,ソース-ドレイン間に電圧を印加し(電界は膜面に対して垂直の向き),エキシトンの双極子ポテンシャルに勾配を与えることで行う.高いエキシトン生成効率を得るためには,井戸層や障壁層のバンドギャップ,井戸層幅,障壁層幅等を最適化する必要があるが,その組み合わせは無限大である.本研究ではコンビナトリアルスパッタ装置を用いて,組成・膜厚傾斜を有する薄膜を一枚の基板上に形成し,これを量子井戸の井戸層に用いて一括で評価することで,最適な組み合わせを早期に獲得する.
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