研究実績の概要 |
ポリアクリル酸などの親水性高分子と架橋剤であるN,N‘―メチレンビスアクリルアミドの混合薄膜に粒子線を照射し、その表面を水蒸気にさらすことで、粒子線の照射位置が隆起する。本提案手法で、OsやXeなどの高線エネルギー付与(LET)の核種に関しては、同時照射してもそれぞれの照射位置をナノメートルオーダーで検出することが可能であった。しかし、プロトンなどの低LETの核種においては、ポリアクリル酸とN,N’-メチレンビスアクリルアミドの組み合わせでは検出が難しく、それ以外の親水性高分子や架橋剤でも困難であった。低LETの核種では、照射部と未照射部の吸水性に差が出るほど、反応が進行しなかったことが原因であると考えられる。そこで、低LETの核種への検出手法として、グラフト重合法に着目した。まず初めに、原子間力顕微鏡(AFM)で、グラフト重合反応前後によって、高分子基材表面でのグラフト鎖の成長が確認できるか検討した。ポリエチレン薄膜をシリコン基板上に形成し、γ線を照射した後、グリシジルメタクリレートモノマー溶液に浸漬して、グラフト重合を行い、原子間力顕微鏡でその表面を測定した。その結果、グラフト重合反応前後でラメラ微結晶の太さが大きくなっていることが確認された。これは、結晶表面に存在するラジカルを起点にしてグラフト鎖が成長していることを示唆している。ラメラ微結晶の太さを評価することで、ラジカルの発生点、つまり粒子線の照射ポイントを厳密に評価することができると考えられる。また、飛跡検出技術のみならず、ナノスケールでのグラフト鎖の成長メカニズムの解明にもつながることが期待される。
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