前年度においては、ポリエチレン薄膜に対して、γ線を照射し、表面にラジカルを形成し、グラフト重合を行うことで、原子間力顕微鏡により結晶ラメラ相の繊維が太くなることを確認した。本年度においては、定量性を評価するために、より線量のコントロールしやすい電子線を利用して、結晶ラメラ相の繊維径を確認した。50 kGyの電子線をPE薄膜に対して照射し、ラジカルが失活しないように―80℃の低温で保存した。グリシジルメタクリレートモノマー溶液を用いてグラフト重合を行ったところ、グラフト重合前の結晶ラメラ相の繊維径は平均で29.1 nmであったが、反応15分後では32.7 nm、30分後では、36.9nmと増加していることが確認された。繊維の構造に関しては、大きく変化していないことから、結晶ラメラ相の表面でグラフト重合が起こっていることを示唆している。非晶層においては、形成されたラジカルがすぐに失活し、グラフト重合に起因していない。そのため、グラフト重合を行った後でも、結晶層の繊維構造がはっきりと確認されたと考えられる。線量依存性やポリエチレンの結晶化度について、より詳細に検討する必要があるが、原子間力顕微鏡によってグラフト重合の初期過程の可視化に成功した。グラフト重合を利用することで、粒子線の飛跡検出技術の利用にも応用できると考えられる。
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