研究課題
本研究のテーマは「偏極・非偏極中性子回折実験用ハイブリッドアンビルの開発」であり、偏極・非偏極中性子回折用の高圧力セルを開発し、圧力誘起新奇物理現象の発見、解明を行うことを目的としている。初年度である平成27年度では、(1)マルチフェロイクス物質TbMnO3における圧力誘起巨大強誘電分極現象を解明すること、また(2)マルチフェロイクスCuFeO2の圧力誘起相の磁場効果の研究に着手した。2014年のNature Communication誌に、4万5千気圧(4.5 GPa)以上の圧力をマルチフェロイクスTbMnO3に印加すると、誘電分極の向きが90°回転し、且つ電気分極の大きさが1桁以上増大する結果が報告された。しかしながら、これまでの研究では巨大な電気分極の起源がわかっていなかった。そこで、我々は英国のパルス中性子施設ISISにおける高圧力下中性子回折実験によって高圧、高磁場、低温環境下での磁気秩序の解明を試みた。実際には、ハイブリッドアンビルセル内に0.6x0.5x0.2ミリメートルという微小サイズの単結晶試料を仕込み、セルを10テスラまで印加できる超伝導マグネットに挿入することによって、5.0GPa, 8T, 1.5Kという多重極限環境下を実現し、中性子回折実験に成功した。得られた実験結果を、郡論を駆使して解析することによって、高圧力で誘起される2つ圧力誘起強誘電相の磁気構造と対称性を明らかにした。それによって、これまで解っていなかった巨大電気分極の発現機構が解明された。この成果を米国物理学会誌Physical Review B誌の速報版(Rapid Communication)に発表した。(2)マルチフェロイクスCuFeO2では、上述のISISにおいて、新しく導入したCuBeとNiCrAl合金で作られたピストンシリンダータイプの圧力セルを用いて13.5Tまでの磁場中、高圧力中での中性子回折実験に成功した。これによって、3GPaまでの圧力であれば、13.5Tという高磁場下での実験が容易に行えることが証明された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に目標としていた非偏極中性子を用いた高圧、強磁場、低温という多重極限環境下での実験環境の構築、実施は、上述したTbMnO3の成果にあるように、おおむね順調に進展している。ただし、実験で発生できた圧力は5.0GPaであり、TbMnO3の実験自体には支障のない高圧力であったが、当初目標としていた10GPaまでの実験を成功させることができなかった。今後は、適切なアンビルのキュレット径の選定や、圧力媒体の選定が課題となった。
平成27年度では、非偏極中性子を用いた高圧、磁場中、低温の多重極限環境下での実験に成功した。平成28年度以降は、世界初の高圧力下3次元偏極解析実験をフランスILLにおいて成功させることが目標となる。まずは、偏極中性子実験に耐えうる非磁性材料のアンビルの選定を行い、磁性の評価と、加圧テストを行う。選定されたアンビルをつかったハイブリッドアンビルセルを用いて、本実験に取りかかり、マルチフェロイクス物質系の詳細な磁気構造決定を行い、強誘電性の発現機構を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件)
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