研究課題
本年度は、ハイブリッドアンビルセルを用いた高圧・低温・高磁場中でのマルチフェロイクス物質TbMnO3の中性子回折実験を英国ISISの冷中性子TOF回折計を用いて行い、圧力と磁場によって誘起される巨大強誘電分極の起源を解明した。TbMnO3のMnスピンが結晶格子に整合の伝播波数ベクトルをもち、かつ共線的に秩序化すると、Mn-Mn間に働く交換エネルギーの利得のために結晶格子が交換歪効果を通じて変形し、電気分極が現れることを見出した。この結果は、以前に報告された第1原理計算の結果と良く一致した。上述の高圧下中性子回折実験の結果は、米国物理学会誌Physical Review Bの速報板Rapid Communicationsに掲載された。高圧力下中性子3次元偏極解析実験の実現のために、完全非磁性ハイブリッドアンビルセルの試作、圧力試験、中性子3次元偏極テスト実験を行った。サファイア単結晶アンビルとダイアモンド焼結体、またはWCの組み合わせによって数GPaまでの加圧と、中性子偏極度の軽減が起こらないことを見出した。また、暫定的ではあるがマルチフェロイクスCuFeO2の高圧力相の磁気構造を3次元偏極解析を用いて決定することができた。巨大電気分極を示すと報告され注目を集めているペロフスカイト化合物AMn7O12 (A=Ca, Sr, Cd, Pb)の焦電流測定の再検証を行った。その結果、これまでに報告されていたCaMn7O12の巨大強誘電分極は、本質的な強誘電分極に起因するものではなく、熱刺激電流によるものであること見出した。
2: おおむね順調に進展している
最終目標である世界初の高圧力下中性子3次元偏極解析実験の実現に向けて順調に進んでいる。昨年度は、完全非磁性アンビルの選定が完了し、テスト実験も行った。ただし、目標としている圧力は10 GPaであるため現状の4 GPaを考えると、今後アンビルサイズ、ガスケット、圧力媒体等の最適化が必要と思われる。また、昨年度行ったマルチフェロイクス物質TbMnO3の実験では、Mnスピンの共線的な磁気秩序が巨大電気分極の起源であることを見出したが、磁場や温度変化によって電気分極の値が大きく変わることに関しては未だそのメカニズムがわかっていない。今後、高圧力下の中性子回折実験を関連物質DyMnO3に対しても行い、電気分極の変化を解明する予定。
今後はこれまで開発した新しい高圧力下中性子回折実験設備を用いて、マルチフェロイクスDyMnO3の中性子3次元偏極解析による精密磁気構造解析、および高圧相の希土類スピンの磁場変化を精密に測定することによって、大きく変化する強誘電分極の起源を解明する。さらに、圧力誘起金属絶縁体転移をしめすSm化合物や、鉄系高温超伝導体に対して、ハイブリッドアンビルセルを用いた高圧力下中性子実験を行い、その磁気秩序と新奇な相転移、超伝導状態の関係を調べる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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