研究課題/領域番号 |
15H05434
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
犬伏 雄一 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 研究員 (40506250)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ビーム / X線自由電子レーザー / レーザー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は外部励起源を用いたX線増幅手法の開発であり、励起源として高強度光学レーザーを固体サンプルに照射した際に生成する高エネルギーの電子(高速電子)を用いた。この高速電子が固体中を伝搬する際に、内殻電離状態が生成される。本研究ではここに、その内殻電離状態から放射されるKα線と同じ波長のXFELを照射することで誘導放出を起こし、X線増幅を行った。 実験はSACLAで実施した。ゲイン媒質として銅(Cu)を選択し、厚さ20umのフォイルを用いた。CuのK吸収端エネルギーは9keVであり、内殻電離状態を生成するためには、そのエネルギー以上の高速電子が必要である。光学レーザーは波長800nm、パルスエネルギー70mJ、パルス幅50fsであり、10umまで集光した。このレーザー条件における高速電子温度は50keV以上となるためCuの内殻電離を充分生成可能である。XFELの光子エネルギーは8.05keVであり、CuのKαと同じ光子エネルギーである。このXFELをKBミラーにより10um程度に集光した。 増幅スペクトル計測のために、楕円ミラーとシリコン分光結晶、X線CCDカメラを組み合わせたシングルショット・スペクトロメーターを用いた。増幅光はシード光と同軸に指向性を持って放射されるため、スペクトロメーターはXFELと同軸下流側に設置した。また、波長分散と直交する方向には空間情報を有していた。 実験で得られたスペクトルでは、Cu-Kαと一致する光子エネルギーにおいて鋭いピークが観測され、また、その角度分布に指向性をもつことから、増幅されたスペクトルであると結論付けた。但し、パルス毎のタイミングジッターとスペクトル変化の影響で増幅は数%の成功率であった。増幅スペクトルの幅はおよそ600meVであった。その幅内のエネルギーのゲインはおよそ5であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、Cuをゲイン媒質とした高強度光学レーザーとXFELの組み合わせた実験において、本研究課題の最大目標であったX線増幅を達成しており、研究は順調であるといえる。増幅スペクトルのバンド幅、そのバンド幅内のエネルギーゲインも評価することができた。 尚、本研究課題の計画当初は、2年目(2016年度)において、セルフシード方式によるシングルモードXFELパルスをシード光として用いた実験を行う予定であったが、SACLAにおけるセルフシードXFELのユーザー供用の目途が立っておらず、この実験は現状では実施できない。しかし、現状のSASE方式のXFELでも生じる物理現象に違いはないので、増幅機構を詳細に調べる過程において問題はないと考えている。 また、3年目(2017年度)において、使用予定の500TWハイパワーレーザーは現在立ち上げ調整中である。
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今後の研究の推進方策 |
現状では、X線増幅に成功しているものの、まだ光学レーザー条件やサンプル条件の最適化ができていない。光学レーザー条件として強度とパルス幅、サンプル条件として厚みをパラメータとすることを考えている。今後はこのようなパラメータを変えながら増幅スペクトルを計測することで、より高いゲインが得られる条件をさがす。 また、これまでに得られている増幅スペクトルのバンド幅はおよそ600meVであった。この幅はCuのKα線の自然幅(~2eV)よりも狭い。プラズマ中のエネルギー準位の変化によって、ゲインが生じる波長域がごく狭くなっていることが予想される。ゲイン幅をより詳細に調べるために、今後はより高分解能のシングルショット・スペクトロメーターを使用すると共に、レーザー生成プラズマからの発光スペクトルも同時計測する。 XFELと光学レーザーのタイミングジッター、XFELスペクトルのパルス毎の変動から、現状の増幅は数%のショットしか増幅されていない。しかし、後者の影響に関しては、Cuに入射する前のスペクトルを観測しておき、Cu下流側のスペクトルと照合することで、詳細な解析が可能となる。この計測を実施するために、今後はCu上流部にてビームスプリッターを用いたシングルショット・スペクトロメーターを使用する。 これらの実験を実施したうえで、最終的には500TWハイパワーレーザーを使用した実験にて、パルスエネルギーの飛躍的な増大を目指す。
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