本年度も昨年度までに引き続き,地球流体力学に現れる非線形偏微分方程式系に関する研究を行った.回転の影響がなく安定成層のみが単独で存在する状況において,非粘性 Boussinesq 方程式の初期値問題に対する適切性を考察した. 昨年度までの研究において,非粘性成層 Boussinesq 方程式の初期値問題に対する長時間一意可解性を証明したが,本年度は時間大域的適切性の解決を目指し,線形時間発展作用素に対する時空積分評価の改良を考察した.特に,安定成層に対応した歪対称線形作用素から生成される線形時間発展作用素に対して,異方的微分作用による,時空積分評価が成立する許容指数範囲の拡張に関して研究を行った.成層が単独で存在する場合は,回転が単独で存在する場合と大きく異なる点として,線形作用素の Fourier 像側での表象行列の零固有値が多重度2をもち,分散性の得られない定常モードが現れることが挙げられる.更に線形波の分散関係式が,回転の影響がないために特異性を有し,停留位相法や Littman の補題などの振動積分の一般論が適用出来ない状況となる.本研究では,分散関係式が有する特異性および退化性の方向に対応した異方的 Littlewood-Paley 分解を導入し,停留位相法の相関数に対する安定性評価を用いることで,安定成層に対応した線形時間発展作用素に対して,鉛直方向に関する異方的微分作用によって,時空積分評価の成立する許容指数範囲が最良の範囲へ拡張されることを証明した.
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