研究課題/領域番号 |
15H05437
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
當真 賢二 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (70729011)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ブラックホール / 相対論的ジェット / 偏光 / 一般相対論 |
研究実績の概要 |
ブラックホールに関連して起こる現象のうち、最も理解されていない謎の一つがほぼ光速の噴流(ブラックホールジェット)である。それは活動銀河の中心に存在する超巨大ブラックホール、あるいはガンマ線バーストに付随する。ジェットがいかにして駆動されるのか(駆動機構)、いかにして輝くのか(放射機構)は宇宙物理学上の大問題である。 平成27年度(と大部分の経費を繰越して実施した平成28年度)では、ジェットの駆動機構の理解を大幅に進める成果が得られた。駆動機構は、ブラックホールの回転エネルギーの電磁的抽出(Blandford-Znajek過程)が最有力モデルである。この過程には特別な状況下での数学的解があり、また近年活発化している磁気流体シミュレーションによる数値解が示されている。しかし電磁エネルギー流の源がどこにあり、ブラックホールのエネルギーがいかにして抜かれるか、などの基本的な疑問に答えられていない。 私は、数値シミュレーション研究で再発見された一般相対論的電磁気学の定式化を駆使し、これまでの解析的研究では考えられなかった非定常効果を解析的に考えることを可能にした。また、これまでの解析的研究では最も簡単な座標系が採用されていたが、本研究では二つの座標系で同じ結論が得られることも確認し、物理的な解釈を見定めることができた。その結果、電磁エネルギー流の源は非定常状態における磁気流体近似が破れる領域であることを示した。またブラックホールのエネルギーは粒子や場の負のエネルギーを介して減少するのではなく、直接電磁エネルギー放出によって減少することがわかった。この成果はToma & Takahara (2016) PTEP, 2016, 3E01として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般相対論的電磁気学を駆使したジェット駆動機構の研究について、当初計画していた「電磁エネルギー流の源がどこにあり、ブラックホールのエネルギーがいかにして抜かれるか、などの基本的な疑問に答えること」を達成することができた。その中で、これまでの解析的な研究で注目されていなかった非定常過程、二つの座標系での解析、エネルギー密度の座標依存性などが重要になることが明らかとなり、予想以上の成果となった。 一方で、偏光理論を駆使したジェット放射機構の研究については、ガンマ線偏光輸送計算を行う研究支援者の参画が予期せぬ事情により遅れた。しかしながら、研究支援者が参画した平成28年度には、研究が進展した。ガンマ線偏光に対するプラズマ電子の影響は、その温度に強く依存する。温度の推定には、電子が放射領域で電波を吸収する効果を考慮する必要があることが分かったが、それを踏まえて推定することができた。 以上の理由により、当初の研究計画はおおむね順調に遂行できているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
一般相対論的電磁気学を駆使するジェット駆動機構の研究については、これまでのところ、プラズマ粒子が十分にある領域において電磁流体近似が成り立つと仮定している。今後はそれを確認すべく、電子陽電子あるいは電子陽子の2流体の解析が必要となる。これまでに、与えられた電磁場の中でのテスト粒子の運動を数値計算し、その振る舞いを理解できている。今後、その2流体の安定性や外からの粒子注入による磁気流体近似の破綻の可能性について議論を詰めていく。 偏光理論を駆使するジェット放射機構の研究については、電子の温度(エネルギー分布)が分かったので、それを基に、偏光輸送計算を行えばよい。Toma et al. (2008) ApJ, 673, L123の類推から、X線で偏光スペクトルが折れ曲がることが予想される。その観測可能性と観測情報から放射機構にどれほどの制限が課されるかの議論を詰める。
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