研究課題/領域番号 |
15H05438
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山田 真也 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40612073)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | X線天文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、ブラックホールからの高速の噴出流であるジェットの運動や、質量放出率、星間空間への影響を、日本のASTRO-H衛星とDIOS衛星による高精度のX線分光で調べ、ブラックホール周囲のエネルギー収支から銀河へのフィードバ ック機構をはじめて明らかにすることが目的である。ASTRO-H 衛星を用いて既知のバリオンジェット源の精密 X 線分光の宇宙実証を行うべく、本年度は、ASTRO-H衛星の打ち上げの最終試験から、種子島での打ち上げ直前の性能評価から運用までを行い、液体ヘリウムの充填後に打ち上げ予定日の延期があったものの、要求値とした液体ヘリウムの量と温度を満たし、しっかりと打ち上げの成功へと繋げる事ができた。軌道上で、搭載された精密X線分光器は、ほぼ予定通りの性能を発揮し、宇宙X線信号の取得にも成功した。現時点は、不測の事態により、衛星との通信が困難な状態が続いており、復旧活動を進めている。将来のX線衛星を用いたジェット源の系統的探査に向けた研究も進めており、小型衛星の高速姿勢制御や、短時間での地上と衛星間の通信方法の検証を進めた。また、将来のミッションで重要となる超伝導遷移端検出器の最適化設計や開発もこれらに平行して進めた。超伝導の検出器では、転移特性がエネルギー分解能の向上の鍵を握るため、その性能に影響を与えている要因を洗い出し、薄膜の製作装置の見直しや、超伝導体の表面特性と転移特性の詳細な評価も行った。予期せぬASTRO-H衛星との通信不通を除けば、概ね順調に研究が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ASTRO-H衛星に搭載されるマイクロカロリーメータを、衛星の全システムがフライト品の条件下で、 様々なデータを取得し、性能評価をおこなった。予想されていた地磁気を用いた姿勢制御用の磁気トルカからの干渉はフライト条件でも見えたものの、干渉信号を軌道上で選別し棄却するようにCPUに搭載された書き換え可能メモリ上のプログラムを書き換えることで対応し、エネルギー分解能への影響もほとんどないを確認できた。打ち上げ前には、過去の試験で一度だけみられた低周波の広帯域ノイズが再来しないことが最大の懸念であったが、射場の種子島での最終試験や、打ち上げ直前の動作確認でも全く問題なく性能を発揮させることができた。打ち上げ後も想定通りの性能を確認でき、天体観測も実現できた。将来のX線ミッションに向けて、高速姿勢制御の新しい枠組みについても検討も進めた。イプシロン衛星にX線ミラーと冷却用 Dewar を収めて、電力、発熱、構造の制約をクリアする方法について検討をすすめ、X線ミラーの取り付け位置を集光力がより高まる方向に変更してもミッション要求を満たす見通しをつける事ができた。超伝導TES検出器の開発は、プロセスの過程を一つ一つ見直す事で、表面の荒さを数nmに押さえこむことが要因の一つであるとわかり、良好な超伝導特性が得られる見通しが立った。またTESの地上応用に向けて、冷却系やセンサー周りの製作を進めた。「すざく」衛星を用いたブラックホールの降着流の研究も継続しており、星風と降着円盤を統一的に理解する理論的な準備も行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、ASTRO-H衛星で得られたデータを綿密に解析し、宇宙空間でのセンサーや冷凍機の状態を精査し、地上試験のデータとつき合わせて、宇宙環境の影響を定量化する。次世代の衛星では、ASTRO-H衛星で搭載した寒剤の液体ヘリウムを使わず、無冷媒での冷却がベースプランであるため、可能であれば無冷媒での運転状態でのセンサーへの影響を調べ、将来ミッションに得られた知見を生かす。カロリーメータ検出器のゲイン補正やエネルギー較正の系統誤差を、軌道上の鉄55線源を当てたデータを使う事で評価し、打ち上げ後にゲートバルブが閉じている間に取得したサイエンスデータの輝線の広がりやドップラー効果を強さを定量化し、プラズマのバルクな速度などの物理量を抽出する。将来の衛星開発に向けては、次年度にイプシロン衛星への搭載ペイロードの公募の可能性が高いため、提案に出せるための準備を進める。特に、センサー周りのインターフェースを固め、全体設計との整合性が成り立つ案を考える。衛星の素早い姿勢変更のための地上系や宇宙間通信の方法も引き続き検討をすすめ、現実的な実装方法を見定めるとともに、バックアッププランとして、自立的な小型のトリガー装置の検討も行う。衛星でのTES型カロリーメータの活用に向けて、技術成熟度のレベルを引き続き高めるために、米国や国内の研究機関との開発協力も進め、地上実験に向けたセンサーや冷却系の試験や、性能向上に向けて室温読み出し系や、配線周りの改良も進める。
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