研究課題
本研究は、主には恒星質量ブラックホールからの高速の噴出流であるジェットの起源はそれが外界に与える影響を明らかにするため、質量降着率や放出率と星間空間への影響をX線観測から明らかにし、背後の物理を明らかにすることである。銀河とブラックホールの共進化や相互作用が宇宙論的なタイムスケールで必要だと考えられており、ブラックホール連星系に着目すると、系の小ささから人間が観測できるタイムスケールで変動がみえることから、連星系の研究に着目して行なっている。観測的には、高精度のX線分光を主眼として、そのためのデバイス開発、衛星開発、X線や多波長観測を行う。装置開発においては、超電導のX線マイクロカロリメータによる精密X線分光を目指して、最先端のマイクロ波を用いた多素子の読み出し方式に着目して開発を進める。従来の方式では数千ピクセルの読み出しが限界であったが、MHz帯域ではなくGHzの高周波帯域とRFSQUIDを用いた読み出し方式を用いることで、数万ピクセルの素子を読み出すことが可能になる。またRF-SQUIDを用いたDCバイアスでTESを動作する方式であれば、スケールアップの際に、素子への性能を与える影響を予言しやすいメリットもある。衛星開発はX線代替機の室温デジタル部の開発を進めて、地上試験からサイエンスデータを有効活用できるような枠組みを構築する。データ解析では、既存衛星を用いた観測から多波長観測も用いてブラックホールのジェットと外部環境の影響を調べる。
2: おおむね順調に進展している
系内ブラックホール SS433 という天体は、そのジェットの時間進化を調べることができるほぼ唯一の天体である。ジェットの運動エネルギーはエディントン光度に近いことから、降着率も極めて高く、円盤を横からみているために、我々からは暗く見えている可能性もある。そこで、「すざく」が観測したSS433のX線スペクトルに、輻射磁気流体シミュレーションから計算されたX線スペクトルを照らし合わせ、そのような放射の有無や上限値に制限を与えるために、データ解析を進めている。SS433のジェットのターミナルショックには、分子雲や、電波のフィラメントに沿うようにX線フィラメントも存在しており、この部位の電波、X線の観測と解析を進めて、ジェットの終端のエネルギー解放の仕組みを理解すべく、電波や超新星残骸の専門家らと協力して研究を進めた。将来の精密分光X線のために、マイクロ波を用いた信号多重化読み出しの研究も進めた。特に、1ギガサンプリング 14 bit のAD/DA と ウルトラスケールのFPGA、SiTCPという高速TCP通信を用いたシステムを end-to-end で動作させて、基本的な動作を確認できた。2つのシステムを連結させるために、外部クロックも用いた同期ができるように改造を行い、基本設計は終えた。次期X線衛星の室温デジタル部分の開発もすすめ、特に地上データを十分に保存できるようなバイパス装置の開発をNASAとの共同ですすめ、その検証を行った。また、このような新規デバイスが衛星試験や性能試験に影響を及ぼすことがないように、コンポーネントおよびそのインターフェースでのグラウンディングやノイズ耐性も十分に検証すべきことがわかった。精密X線分光は将来的には従来のフィッティングでは解析する際にローカルミニマムに入りやすいので、機会学習と組み合わせた解析手法を発展させて投稿論文にまとめた。
系内ブラックホール SS433 という天体の中心にはブラックホールと思われるコンパクト天体が存在しているが、その周囲にどのような降着円盤が形成され、どのような放射が形成され、最終的にそのジェットのエネルギーがどのように熱化するのかもが分かっていない。ジェットとの相互作用と思われるシンクロトロンスポットを中心に解析を進め、電子が数100TeVまで加速されている兆候を捉えているため、それを精査し、論文化を進める。輻射磁気流体シミュレーションと実データとの比較をするために、シミュレーションの専門家らと観測と理論の両面からアプローチや現状のデータ解析の進め方について議論を進める。将来の精密分光X線のために、マイクロ波を用いた信号多重化読み出しの研究も進める。特に、1ギガサンプリング 14 bit のAD/DA と ウルトラスケールのFPGAをより汎化性能が高いものへと引き上げるために、2つのシステムを連結させて、外部クロックも用いた同期ができるようなシステムを実機ベースで動かして、その性能評価と、今後に向けたソフトウェア開発を進める。次期X線衛星の室温デジタル部分の開発もすすめ、特に地上データを十分に保存できるようなバイパス装置を用いて検出器の性能に影響がないことや、データ処理が滞りなく流れることを確認する。機会学習と組み合わせた解析手法もさらに発展させて、より多様なスペクトルに対しても動作するように研究を続ける。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
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