近年、プランク質量(22 ug)程度の機械振動子の基底状態とレーザーパルスを結合させることで、振動子の位置と運動量の間の不確定性関係をプランク長のスケールで検証できる可能性が指摘された。一般相対論を考慮に入れた場合、プランク長を下回る位置の揺らぎは原理的に存在しないため、プランクスケールにおいて不確定性関係は修正されることが予想される。よって、この検証により、空間の最小単位の存在が間接的に示せる可能性がある。しかし、現在基底状態を実現している最も重い振動子の質量は100 ng未満である。そこで、基底状態を実現する振動子の質量スケールをmgスケールまで高めることで上述の検証実験を実施することを目指し、下記の研究を行った。 我々はmgスケールの懸架鏡の重心振動モードの基底状態実現を目指し、高精度な変位測定系とフィードバック冷却系を構築した。結果、振動モードのフォノン数を数百個程度まで冷却可能な系を実現した。これは、変位測定系の精度5e-17 m/sqrt(Hz)@1 kHzに対応し、目標である2e-18 m/sqrt(Hz)@1 kHzまであと一桁程度まで迫っている。さらに、精度を向上するだけでなく、実験当初に測定帯域内で多数観測された機械共振雑音の起源を特定し、全て除去することにも成功した。 現在の精度を制限するノイズ源を検証した結果、レーザー光源の強度・周波数雑音が支配的であることが判明した。これらの低減のため、懸架鏡を一端とした三角光共振器のフィネスを10000まで高め、かつ周波数安定化の改良に取り組む。ハイフィネス化は共振器の線形応答範囲を狭くするため共振器長制御の難易度を急激に高めるリスクも伴う。その解消のため、懸架鏡のローカル制御系(マイケルソン干渉計)の最適化にも取り組む必要がある。これらの対策により、基底状態冷却は十分に実現可能な段階まで実験を進めることに成功した。
|