研究課題
本研究の目的は、新しい断熱フィルターを開発・導入して、CMB偏光観測装置の機能を向上し、原始重力波偏光Bモードを検出することである。CMB偏光観測では、統計を稼ぐために望遠鏡の大口径化が必要不可欠である。しかし、CMB以外の熱放射も増加するため、超伝導検出器の温度が上昇し、ノイズの増加を引き起こす。このノイズを低減させるために選択的に熱放射をブロックするフィルターの開発が重要である。申請者は、二種類のフィルターを提案している。初年度はそれぞれのフィルターの開発を行った。一つ目のフィルターはRT-MLIと呼ばれる放射冷却型のものである。初年度は、本番用のCMB偏光観測装置に導入し、その効果を確かめた。このフィルターは多層にして用いる。本研究では、4-40K間と40-300K間にそれぞれ20枚ずつ配置した。検出器の冷却温度は、本来の設計値である250mKより改善し、240mK以下を達成した。ここから換算すると、検出器感度は約25%向上したことに相当する。二つ目は、ガス対流冷却式のフィルターである。初年度は、真空中内の容器にヘリウムを導入する方法を模索した。最も困難な部分は、光の通り道となるポリエチレン窓と、銅の部分の接合部分であった。常温状態で使用する場合は問題ないが、冷却する過程で、熱収縮の違いによりズレが発生し、漏れることが判明した。この知見を生かし、来年度はズレが発生しないようなシール方法を試す予定である。
2: おおむね順調に進展している
本来の予定では、2種のフィルターの開発を終了する予定であったが、ガス冷却型フィルターの開発はまだ継続中である。ヘリウムのシール漏れに関して原因究明が遅れたのが、主な原因である。しかしこれは、計画時点での想定内の遅れであり、研究全体としては大きな支障はない。一方で、放射冷却型のフィルターは、望遠鏡の設置やその後の評価まで行っており、本来の予定より、やや早いペースで進んでいる。総合的に判断して、おおむね順調である。
今年度は、ガス冷却型フィルターの開発に専念する。克服しなければ課題は、冷却容器でのヘリウムのシール部分で、2通りの方法を検討している。一つ目の方法は、ポリエチレン窓に鉤状形状で引っかけるような構造を作り、熱収縮の違いを使ってさらにシール材を潰すように設計する方法である。形状変更により、機械的に弱い部分ができるので、その部分をいかに保護するかが鍵となる。二つ目の方法は、接合部をインジウムなどの柔らかいシール材から、スタイキャストのような硬いシール材に変更することである。スタイキャストは低温でも接着材のように使用可能で、他実験でも実績がある。これでポリエチレン窓と銅の部分を接着し、ズレを抑制する。これらの方法を試し、フィルター開発を終了させる。並行して、CMB観測装置の開発も行う。今年度内に観測サイトの移動を開始する。
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J. Low Temp. Phys.
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10.1007/s10909-015-1420-9
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