研究課題
本研究の目的は、新しい断熱フィルターを開発・導入して、CMB偏光観測装置の機能を向上し、原始重力波偏光Bモードを検出することである。CMB偏光観測では、統計を稼ぐために望遠鏡の大口径化が必要不可欠である。しかし、CMB以外の熱放射も増加するため、超伝導検出器の温度が上昇し、ノイズの増加を引き起こす。このノイズを低減させるために選択的に熱放射をブロックするフィルターの開発が重要である。申請者は、二種類のフィルターを提案している。今年度は、昨年度に導入したRT-MLIのフィルターの性能を、超伝導検出器MKIDを用いて評価した。MKIDは、シリコン基板上に金属の膜を作り、同軸ケーブルのようなパターンを作ることで製作する。そのケーブルが1/4波長共振器として機能し、その共振周波数の変化から応答を読み取る。それを一本のラインで結ぶことで、たくさんの検出器を同時に読み出す。信号を周波数分解することで、各共振器の応答を分離することが可能である。この開発は、マイクロメーターオーダーの加工が必要であるため、国立天文台の所有するステッパーと呼ばれる露光装置を用いてデザインを作成する。今年度9月に、ステッパーに不測の故障が起こったが、5ヶ月遅れでMKIDを製作、および、フィルターの性能評価を行うことが出来た。その結果、NEP(入力パワー換算ノイズレベル)が目標の値を達成できていることを確認した。つまり、検出器を保持し冷却する、という観点で、望遠鏡の要求を満たすものが完成した。
3: やや遅れている
年度内に、フィルターの性能評価を終了する予定であったが、評価用の検出器製作が遅れたために5ヶ月オーバーとなった。しかし、望遠鏡の冷却系の開発は一段落しており、海外への輸送の準備もすすめている。現状、研究を進める上での支障は特にない。
来年度は、望遠鏡をスペイン領テネリフェ島テイデ観測所に移し、観測を開始する予定である。現在、望遠鏡の検出器の応答性などの性能評価や、現地でのドームの作成などを進めている。また、並行してガス冷却型フィルターの開発もすすめる。克服しなければ課題は、冷却容器でのヘリウムのシール部分である。このフィルターは、望遠鏡輸送後にも、現地にて設置可能なので、観測に間に合うように開発をすすめる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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