研究課題
原子核は陽子と中性子というたった2種類の構成要素からなる物質である。現在この物質を記述する所謂、状態方程式(Equation of state)は完全には理解されていない。特に、陽子と中性子の数の偏り(アイソスピン非対称度)に依存する項である対称エネルギーについては正確なデータも不足しているため長年不明なままである。本研究はこの問題をアイソスピン非対称度の大きい原子核(特に中性子過剰不安定核)の中性子スキン厚を精密に測定することで解明しようというものである。これまでの本研究では、安定核での中性子スキン厚測定を陽子弾性散乱測定によって可能にし、フラッグシップである132Sn不安定核で初めて逆運動学陽子弾性散乱測定に成功した。また、これまでの研究成果をReview articleとして発表するに至った。またEOSの解明にはモデル依存のない情報が不可欠であるため、様々な原子核での系統的な研究も重要である。そこで更に大きなアイソスピン非対称度を持つ原子核への起点となる48Caでの陽子弾性散乱測定から中性子スキン厚の決定を手始めに行った。また、別のアプローチの一つとして原子核物質中のアルファ粒子密度分布の情報を得るためSn同位体でのアルファノックアウト実験を成功させた。このアルファ粒子密度分布もEOSへ強く影響することが示唆されており、このような多角的、系統的なアプローチがEOSの研究ではますます重要となる。さらに、実験的研究を行う上で使用可能なビーム強度にこれまでは制限があったが、本研究にて新たに開発されたガス検出器の性能により一桁大きい強度での測定が可能になりつつある。
2: おおむね順調に進展している
本研究における重要な柱である、132Snでの逆運動学陽子弾性散乱の測定を初めて成功させたことや、大強度の不安定核ビームを使用可能な新たなガス検出器の開発が順調に進んでいることは非常に大きな進展である。ただし必ずしも当初予定していたビーム強度の加速器からの供給がされておらず(当初の10分の1)、有意義な統計量を得られる実験ができないため、提案予定であった実験の一部変更を余儀なくされてもいる。しかし、研究の進捗により、より系統的で多角的なアプローチの重要性が認識され、本研究では並行してより軽い原子核の領域(40,48Ca)での中性子スキン厚測定研究や、異なる構成要素であるアルファ粒子分布測定研究が進展してきた。特に48Caでの研究は、理論的な原理計算が可能になってきたため、現在にわかに注目されてきており非常に意義の大きい研究成果と言える。
まずは得られた研究成果の国際会議や論文での発表に注力する予定である。これにより重要な結果がいくつも公になり、一層EOSの解明が進むと期待する。またさらに厳密な議論が実験と理論双方から起こることも予想され、原子核研究が真に精密物性研究分野へ発展する起点となることを期待する。また、実験的研究の観点からは、開発された新しい検出器や装置を元に、より少ない時間、より弱いビーム強度でも、効率的な測定を行い、十分な統計量のデータを取得可能にする新しい測定手法や装置の確立目指す。本研究課題のみでは確立にはいたらないが、基礎となるガス検出器の性能評価をまとめ、会議や論文に発表する予定である。
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Progress in Particle and Nuclear Physics
巻: 97 ページ: 1~52
https://doi.org/10.1016/j.ppnp.2017.06.001