研究課題
研究初年度の平成27年度は高品質のFeSe超薄膜の作成に着手した。基板のSrTiO3を真空装置に入れた後、Se雰囲気下で950℃で加熱することで平坦化した後、FeとSeを1:10の比で基板を520℃に保ちながら蒸着し、さらに薄膜作成後も加熱することで高品質なFeSe超薄膜を作成する方法を発見した。膜厚は反射光速電子回折(RHEED)におけるスポット強度をモニターすることで判定した。走査トンネル顕微鏡(STM)でこの薄膜の表面を観察した所、100nmと大きなドメイン構造を持つ、高さの揃った高品質超薄膜が作成できていることが分かった。一方蒸着中の基板の温度が420℃だと、薄膜のドメインの大きさが小さくなり、高さも不均一になっていることが分かった。走査トンネル分光(STS)測定を用いて1ユニットセルの厚さのFeSe薄膜を液体窒素温度(77K)まで試料を冷却したが、超伝導ギャップは観測されず、文献で報告されている100Kという転移温度は本実験では再現できなかった。今後薄膜試料の更なる高品質化を行い、これを再現できればと思っている。また角度分解光電子分光(ARPES)装置に新たに試料準備槽を設置し、STMのみならずARPES装置でもFeSeを高品質で作成できるように改良した。この装置は真空なども問題なく超高真空に到達し、FeSe薄膜試料を作成できることが分かった。今後バンド構造の面からもこの1ユニットセルFeSe薄膜の高い超伝導転移温度を解明し、さらにこれまでの報告よりも高い転移温度を実現することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
目標としていた高品質FeSe超薄膜の作成には成功したのでこのような評価にした。
今後は作成した1ユニットセルの厚さのFeSe薄膜の超伝導の観測、そして様々な方法を用いてこれまでの報告よりも高い転移温度を示す試料の作成を目指す。
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