研究課題
キラルな磁性体においてトポロジカルなスピン構造を発現させることにより、固体中の電子が感じる創発電磁場を設計し、新奇物性・新規機能を開拓することが本研究の目的である。特に、古典電磁気学では現れない磁気モノポール構造を生み出すことによってその目的を達成する。平成27年度は当初申請の研究目的の大枠を達成することに成功した。具体的には、キラル磁性体MnGeを微細加工技術を用いて単結晶試料デバイスを作製し、ローレンツ型電子顕微鏡法によって、その中にモノポール型の電磁場を生み出すようなトポロジカルスピン構造が発現していることを特定した。また、そのキラル磁性体MnGeにおいて、モノポール場のダイナミクスに由来して、電気伝導と弾性特性に大きな異常が見られることを実験的に観測した。特に、電子顕微鏡観察実験による磁気構造決定の結果を基に、キラル磁性体MnGe中の磁気モノポールの分布とその磁場依存性を理論予測することが可能になり、モノポールの対消滅過程に伴う強い創発電磁場のゆらぎが観測された巨大な電磁気効果の起源であることやMnGe中を磁気モノポール流が流れることを明らかにできた。さらに一連の関連物質の作製と物性測定によって、モノポール場を創発するトポロジカルな磁気構造の発現条件を、実験的に提唱するすることができた。このように、目的のトポロジカルスピン構造の創発と同定、モノポール場とそのダイナミクスに由来する新奇電磁気現象の観測、磁気モノポール流の存在提唱による新規デバイス機能の提案、さらにはトポロジカルスピン構造の学理構築への実験的観点からの貢献といった成果を挙げられ、研究を大きく推進できた。以上の結果は、学会発表だけでなく論文としてもまとめており、現在3報の論文を出版・投稿している。さらに平成28年度の研究準備のために、単結晶薄膜作製と中性子回折による磁気構造決定を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要にも記した通り、平成27年度は研究目的の大枠を達成できた。すなわちキラル磁性体単結晶デバイス加工による目的のトポロジカルスピン構造の創発と同定、モノポール場とそのダイナミクスに由来する電気伝導や弾性特性に現れる巨大な電磁気効果の開拓、磁気モノポール流の提唱による新規デバイス機能の提案、トポロジカルスピン構造の学理構築への実験的な貢献といった成果を挙げることができた。研究課題である固体中におけるモノポール場の発現とそのダイナミクスの学術を大きく推進できたと言える。そして以上の研究成果は、学会発表や論文執筆によって、積極的に外部へ成果を発信できた。現在までに掲載された論文が6報、投稿中の論文が1報(そのうち本研究の中心課題となるものはそれぞれ2報と1報)あり、解説記事も1報を出版することができた。また国内学会発表を2件、国際学会招待講演を1件、大学院生向けのセミナー活動を1件行なうことができた。さらに平成28年度の計画のための実験準備もできており、トポロジカルスピン構造を用いた新奇物性・新規デバイス設計のための薄膜試料作製やその試料中における磁気構造決定のための中性子回折実験などを進めることができた。平成28年度も滞り無く研究を推進できる状況にできたと言える。
今後も固体中のモノポール場の発現とそのダイナミクスについて、物質開拓、デバイス作製、物性測定、磁気構造決定を高圧合成法、分子線エピタキシー法、高周波磁気共鳴、中性子回折法など様々な手法を用いて解明・開拓し、トポロジカルスピン構造とそれに伴う創発磁気モノポールの基礎学理構築とデバイス応用指針確立に貢献する。特に、高周波数帯を用いたモノポール場の磁気共鳴や電気伝導特性測定、薄膜試料作製といったデバイス試料作製によるモノポール場の制御、様々な外部刺激を用いたモノポールダイナミクスに由来する新奇巨大電磁気応答開拓を行う。一方で、単結晶試料を用いた中性子回折実験による磁場依存性など磁気構造解明といった詳細な物理も追求して行く。すでに、薄膜試料作製やその試料中における磁気構造決定のための中性子回折実験の準備は整っているので問題は現在のところない。得られた結果については論文出版や学会発表などを通して外部に成果公表・情報発信を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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