研究課題/領域番号 |
15H05458
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
関 真一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, ユニットリーダー (70598599)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、空間反転対称性の破れた半導体中におけるスピン軌道相互作用に由来したバンドのスピン分裂を利用することで、スピン流と電流の高効率な相互変換を実現するとともに、その選択則の拡張を行うことを目指している。 今年度は特に、(1)スピン流・電流変換の効率と選択則を評価するための測定系の立ち上げ、(2)空間反転対称性の破れた半導体物質の単結晶育成、の2点を主に行った。(1)については、面内回転磁場を備えたマイクロ波プローブステーションとシグナルジェネレータ・ナノボルトメータを組み合わせることで、スピンポンピング(スピン流→電流)とスピントルク磁気共鳴(電流→スピン流)の測定が可能な環境を整備した。また、予備実験として、参照試料のパーマロイ/白金多層膜に対して磁場方位を回転させながら測定を行い、磁場方位(スピン偏極方向)と電流方向の間の対応関係から、スピン流・電流変換の選択則を正しく再現できることを確認した。(2)については、anti-vortex型のスピン分裂を伴うAg-In-Se半導体と、放射型のスピン分裂を伴うPb-In-Te半導体の大型単結晶を、溶融法により育成することに成功した。いずれの物質も良好な劈開性を有しており、強磁性膜との間で平坦な界面を作成することができている。これらの物質は、従来のスピン流・電流変換の機構である逆スピンホール効果とは異なる選択則を示すことが期待され、次年度にこの点を実際に検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項でも述べたとおり、(1)スピン流・電流変換の効率と選択則を評価するための測定系の立ち上げ、(2)空間反転対称性の破れた半導体物質の単結晶育成、の2点はいずれも順調に進んでいる。現時点までに測定を行ったのは参照試料であるパーマロイ/白金多層膜のみで、本来の目的である(2)の物質群の測定はこれからであるが、これは選択則を正確に評価できるデバイス構造の設計を重視したためである。当初は数mm程度の大きさの試料での測定を試みていたものの、試行錯誤の結果、磁気共鳴を励起するためのマイクロ波のアンテナ(線幅20マイクロメートル)の内部に微細試料を据え付けて、振動磁場の方向を試料中で一様になるようにすることで最も精度の良い測定ができるということがわかった。測定手法自体は確立できていると考えられており、同様のアプローチで次年度は(2)の物質群の測定を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展開としては、現時点までに立ち上げた測定系を利用して、実際に空間反転対称性の破れた半導体におけるスピン流・電流変換の効率・選択則の評価を行うことを予定している。anti-vortex型のスピン分裂を伴うAg-In-Se半導体と、放射型のスピン分裂を伴うPb-In-Te半導体は、それぞれ従来のスピン流・電流変換の機構である逆スピンホール効果とは異なる選択則を示すことが期待され、この点を重点的に検証する予定である。また、スピン流・電流変換の効率は一般にスピン分裂の大きさ(∝スピン軌道相互作用の大きさ)に依存すると考えられることから、より重い元素に置換することで変換効率を向上させられると期待され、この点についても検証を試みたい。
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