鋳型ライゲーションが非線形増幅を示し,頻度依存的な選択が生じて,情報を安定に保持できることは以前に示している.しかし,この頻度依存的選択が生じるための条件は分かっていない.また,この頻度依存性はそれほど強くなく,分子種の安定な出現には頻度依存性の強化が重要である.主に,以下を実現した. 1. 頻度依存的選択の条件.モノマー濃度と希釈率を変化させて非平衡度を制御した結果,適度な非平衡度のみで頻度依存的選択が生じることが分かった.非平衡度が弱い場合は,亜指数関数的な増幅が生じて,全ての配列が増加すること,また,強すぎる場合は増幅が生じないことがわかった. 2. 頻度依存的選択の強化.DNAの1本鎖特異的な切断が頻度依存性を強化することが予想された.そこで,制限酵素とマーカ―配列を用いることで,1本鎖のみ特異的に切断することに成功した.さらに,反応条件をスクリーニングし,この1本鎖特異的切断とライゲーション反応を同時に行うことに成功した.しかし,制限酵素の活性が時間とともに落ちてしまい,数10サイクルしか実験が出来ないことが判明した.そのため,研究の方向性を変えた.詳細な数値計算をした結果,拡散のDNA長さ依存性が頻度依存的選択を強化することが予想された.この予想を,3)で実現した実験系を用いて検証を進めている. 3. 空間的な遺伝情報の共存.ポリアクリルアミド中での鋳型複製反応と微小流路系を組み合わせることで,温度サイクルを行いながら連続希釈ができ,かつ,チャンバー間の相互作用を測定できる実験系を設計し,実験を開始した.これにより,今後,異なる遺伝情報の空間的な共存を実証する. 4. 鋳型ライゲーションのエラー制御.鋳型ライゲーションにおけるエラー率を,基質結合の反応バリアの高さを変えることでキネティックに制御できることを実証した.
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