研究課題
生物の最小単位である細胞や、細胞膜モデルとして汎用されるリン脂質膜小胞(ベシクル)では、非平衡性とエルゴード性の破れが生じることが近年示唆されている。また我々の最近の研究から、高粘性の高分子溶液をリン脂質膜でミクロ空間に閉じ込めると、高分子の拡散速度が低下することや、相分離の濃度場が熱平衡状態に達しないことが分かってきた。以上から、高濃度の高分子溶液を脂質膜で覆うと、分子の混み合いが顕著化して粘弾性的となり、バルクとは異なる振る舞いが生じるという仮説をたてるに至った。本研究では、高分子溶液を閉じ込めた細胞モデルを用いて、高分子拡散・膜界面揺らぎなどの解析を通し、膜界面と高分子の相互作用が生み出す非平衡現象を解明することを目的とした。本研究課題に対し、以下の成果を上げた。(1)リン脂質膜で覆われたマイクロメートルサイズの高分子液滴における分子拡散を、本予算にて購入した共焦点レーザー顕微鏡を用い、蛍光相関分光法により解析した。高分子混雑とミクロサイズ閉じ込めの両方が実現される時、バルクよりも速い拡散が生じることを見出した。またその要因として、高分子鎖の配向や不均一分布に由来する低次元での分子拡散を提案した。この成果は2018年にPhys. Chem. Chem. Phys. に原著論文として掲載された。(2)異なるサイズ・形状をもつ高分子を混雑分子として用い、(1)同様に高分子混雑する細胞モデル中での分子拡散を解析した。混雑分子の濃度が同じであっても、高分子のサイズ・形状によりその影響が変化することを明らかにした(論文準備中)。(3)閉じ込め界面が分子拡散に与える影響を、細胞モデルを覆う膜界面からの距離依存性として解析し、混雑分子の有無により、界面距離依存性が変化することを見出した(2018年春季物理学会他にて発表)。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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