研究課題/領域番号 |
15H05464
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 友徳 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (10512270)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 気候変動 / アジア / 降水 / 熱波 / 陸面 |
研究実績の概要 |
過去の日本およびアジアモンスーン地域における地域気候変動の要因分析を行うにあたって、まず必要となるデータの取得を行った。気象庁によるJRA55再解析データおよびERA-Interim再解析データを取得し、長期間の気候解析および数値モデリングで強制データとして使用するためのフォーマット変換を行った。さらに、植生指数や土壌水分量など地表面指標の衛星観測データを取得し、気候値等の基本データを作成するとともに、モデルの下部境界条件とするための変換および解析ツールの整備を行った。 上記のデータおよび地上気象観測データを用いた解析の結果、モンゴルを中心とした北東ユーラシア地域では局所的な熱波の増加が確認されていることが分かった。また、降水量、土壌水分量ともに低下傾向にあることから、陸面の蒸発の減少と顕熱フラックスの増加が熱波の増加に寄与している可能性が示唆された。これらの仮説を検証するため、領域気候モデルによる過去再現実験を開始し、1981年から2010年までの暖候期の数値実験を実施した。 一方、南アジア地域における降水量の年々変動についても解析を開始した。世界的な多雨地域として知られるインドのメガラヤ州では、季節内振動の活動度が降水量の年々変動とよく対応していることが先行研究によって示されている。本研究では、TRMM3B42プロダクトを用いた解析によって、季節内振動の活発期、不活発期について降水の日周期性について解析を行った。その結果、季節内振動の活発期にはメガラヤ丘陵の南側斜面では夜間から早朝にかけて降水量が多く、不活発期には北側斜面で日中に対流活動が活発となる傾向があることが、長期間の降水量データ解析の結果明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、解析に必要な各種データ(大気・陸面再解析および一部の予報値、降水量・土壌水分・植生指数等の衛星データ)の取得が順調に進み、解析可能な形式にフォーマット変換を行った。これら大量のデータを効率的かつ安定して解析するために、ストレージサーバを購入し、研究に必要なパッケージのインストールも順調に完了している。 日本および南・北アジアの各地域において30年程度の期間のデータ解析に着手し、次年度以降に局地気候のアトリビューション研究のターゲットとすべき興味深い変動シグナルが検知されている。 申請時に協力予定者として記載していたアジア地域出身の大学院生が継続的に在籍しており、日本周辺地域の気候変動に関心を持つ日本人大学院生とともに、本課題の対象地域における気候変動研究に順調に着手することができている。 以上の点から、現在まで順調に進捗していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
申請時の計画に沿って研究を進めていく予定である。特に重点的に研究を推進するターゲットとして、下記に挙げた3つの地域・現象を予定している。 (1)南アジア地域(インド・メガラヤ地域)における降水量の年々変動および日変動のメカニズム解明; 人工衛星および観測データ解析に加えて、メソ気象モデルによる高解像度の実験を行うことで、降水量の時空間的な増幅に寄与する地形効果を明らかにする。この地域は世界的に降水量が多い地域であり、この地域の降水メカニズムを明らかにすることで、強雨の維持機構の理解に役立つと期待される。 (2)北日本におけるメソ低気圧活動の年々変動と季節変動; 北日本の冬季にしばしば豪雪をもたらすことで知られるポーラーローの発生要因を明らかにするため、領域気候モデルによる長期間の数値実験を行い、モデル出力データから小低気圧を検出する手法を確立する。その後、海氷分布や海陸分布を操作した各種の感度実験を行うことで、小低気圧と下部境界条件の関係を明らかにする。特に近年日本周辺の海氷分布が縮小傾向にあることから、これと小低気圧の発生や経路との関係を明らかにすることを目指す。 (3)北東アジア地域の熱波頻度増加のメカニズム; 初年度の解析によって明らかとなった同地域の熱波頻度の増加に対して、植生活動や土壌水分量の長期的な変化がどの程度寄与していたのか、領域気候モデルによる数値実験を手法として明らかにする。この地域は、温暖化時の将来予測において降水量の変化傾向が気候モデル間で一致していない地域である。過去の熱波増幅のメカニズム解明を通じて、将来の極端気象の発生頻度の予測を精緻化することや、将来の水循環変化の不確実性の低減に寄与できる可能性がある。
|