研究課題
平成28年度までに整備した各種データ(大気再解析、海面水温・海氷、植生、土壌水分など)を用いて、過去の地域気候変動の再現実験を実施した。また、海面水温・海氷や土壌水分など大気モデルにおける下部境界条件を気候値などの仮想的な条件に置き換えた感度実験を開始した。北海道の周辺の海上で発生し、暴風雪をもたらすポーラーローは、間宮海峡やオホーツク海の海氷分布が少ないほど発生しやすいことが示唆された。また、極東のシホテアリニ山脈がポーラーローの発生しやすい環境場を形成していることが分かった。この実験から下部境界条件による強制は、背景大気場の構造によって異なることが分かった。南アジアの多雨地域における降水の変動メカニズムに関しては、大気境界層の日変化に加え、インドシナ半島西側の山脈の熱的効果に起因したジェットが降水の日周期性を強化していることが明らかとなった。高緯度ユーラシアにおいては、土壌水分と地上気温の間に正のフィードバックがあり、これが近年の熱波の強度を強めていることが分かった。日本では、GPS可降水量を用いた統計解析の結果、上空の水蒸気量は地上気温に対してほぼクラウジウス-クラペイロン関係に従って変化していることが初めて水蒸気観測データから示された。これは、強い降水事例が気温上昇につれて増加傾向にあることを示した先行研究の結果に理論的根拠を与えるものである。北日本では、低気圧の通過頻度に応じて視程低下のイベント頻度が概ね説明できることが分かった。これらの成果は論文発表に加えて、一般市民へのアウトリーチ活動や気象台での講義などを通じて積極的に広報活動を展開した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りに各種観測・再解析データセットの取得と整備が実行され、これらを用いたモデル実験のための準備が進められてきた。平成29年度は各対象地域における長期実験と感度実験をもとにした一定の成果が得られつつあり、精力的に論文の執筆へと移行している。平成29年度にはGPS可降水量の解析に関する成果をプレス発表し、新聞等でも紹介された。また、南アジアの降水に関する研究成果は、学術誌の表紙のイラストに採用されるなど、国際的にも高い評価を得ている。平成29年度計画では、新規に公開されたデータセットを使用した解析を追加項目として掲げた。本研究計画に関連して、大規模アンサンブル気候予測データセットの取得がひと段落し、大量のデータセットに基づいた気候変動のアトリビューション研究の成果が出つつある状況である。以上の理由から、進捗は順調であると判断できる。
平成30年度は最終年度に当たるため、これまでの成果を統合化し、論文や学会等で発表することに注力する。そのため、これまでの実験結果の解析をさらに詳細化し追加解析を行うことと、結果の解釈を適確に行うために共同研究者との議論に多くの時間を割く予定である。また、論文執筆の過程で必要性が認識された視点についての解析や追加実験を逐次行うことになる。平成29年度以降に新規に掲げた大規模アンサンブル実験データの解析では、台風の確率的振る舞いや、アジアや日本で生じた低頻度の異常気象などに着目し、その要因分析を行うこととする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 6件、 査読あり 3件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 9件) 図書 (1件)
Renewable Energy
巻: 116 ページ: 88~96
https://doi.org/10.1016/j.renene.2017.09.069
北海道の雪氷
巻: 36 ページ: 133-136
細氷
巻: 63 ページ: 80-81
巻: 63 ページ: 96-97
Journal of Geophysical Research: Atmospheres
巻: 122 ページ: 9591~9610
https://doi.org/10.1002/2016JD026116
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 1-6
doi:10.1038/s41598-017-04443-9