研究課題/領域番号 |
15H05465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茂木 信宏 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20507818)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エアロゾル / 光散乱 / 大気放射 |
研究実績の概要 |
当研究の目的は、個々のブラックカーボン含有粒子の光散乱・光吸収特性の測定からブラックカーボンの複素屈折率を推定することである。散乱・吸収特性の測定値から複素屈折率を推定するためには、まず(1)干渉要因となりうるブラックカーボン以外の光吸収性成分の測定と、(2)複雑形態粒子の光散乱問題を高精度・効率的に解くためのコードが必要である。 本年度の成果は、ブラックカーボンの複素屈折率測定装置の開発の準備として必要な、これらの問題を解決したことである。具体的には下記の通り。
(1)単一粒子レーザー誘起白熱法で、大気エアロゾルの中でBCと同程度に強い光吸収性を持つ酸化鉄粒子を定量する方法を考案し、実験的に性能を実証した。さらに、実大気中に酸化鉄粒子が豊富に存在することを示した。本成果は、エアロゾル研究で革新的な成果のみが掲載される Aerosol Research Letter に出版された (Yoshida, Moteki et al. 2016)。
(2)ブラックカーボン粒子は数十~数百個の炭素微小球の凝集体のからなっている。大気中に存在するブラックカーボン含有粒子はその凝集体の表面に硫酸塩や有機物が付着したものである。このような付着物の影響を加味した屈折率推定を行うためには、任意形態のブラックカーボン含有粒子の光散乱問題を高精度で解く手法が必要である。申請者は、Maxwell方程式の境界値問題の枠組みで、微小球の凝集体に任意形状の付着物が混合した粒子の散乱問題を高精度に解くアルゴリズムを開発した。本成果は、電磁気・光散乱分野の一流誌 Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transferに出版された (Moteki 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)単一粒子レーザー誘起白熱法で、強い光吸収性を持つ酸化鉄粒子の粒径別数濃度を定量する方法を開発し、実大気中に酸化鉄粒子が豊富に存在することを示したこと(Yoshida, Moteki et al. 2016)は、当初の研究計画にはなかったものの、新規性・将来性の高い成果である。ここで開発した酸化鉄粒子の観測手法は、大気放射だけでなく、エアロゾルによる鉄供給の観点で海洋微生物学、アイスコア中の微粒子分析などで古気候学など幅広い分野への波及効果が期待出来る。
(2)任意形態のブラックカーボン含有粒子の光学特性の研究で、散乱解法における誤差要因を明確に解析し、誤差を緩和するための方向性を明示したのは、本研究 (Moteki 2016)が初めてである。これは、理論上、大きな進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、次年度は、単一粒子の光散乱法とレーザー誘起白熱法を組み合わせた装置を試作し、ブラックカーボン粒子の屈折率の推定を試みる。装置のコンポーネントとして、予定通り、単一粒子光散乱チェンバーと、タンデムエアロゾルジェットの2装置を設計・製作する。
推定された屈折率の値を検証するためには、上記の装置とは独立に粒子の光学特性を分析する装置が必要である。そのために、水中に分散したのブラックカーボン粒子による光吸収係数を測定する補助的な装置も開発する。
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