研究課題
本研究は,化学合成微生物でもストロマトライト組織を形成できるかを検討し,ストロマトライトの持つ古生物学的意義を再検討することを目的とする.平成28年度は下記の4項目において研究を進めた。1)深海チムニーの記載:南部マリアナのしんかい湧水域では,蛇紋化作用に関連した湧水から炭酸塩とブルーサイトから構成される白色のチムニーが発達し,チムニー内部には局所的にストロマトライト組織が発達する.今年度は,過去に採集されたチムニー試料の鉱物組成,堆積組織,炭素同位体組成,現場での観察結果から導かれたチムニーの発達過程を取りまとめ,国際学会と国際学術雑誌にて発表した.2)深海チムニーの微生物群衆構造解析:上記の深海チムニーにおいて16S rRNA遺伝子の系統解析を行い,ストロマトライト組織の形成に関与しうる化学合成微生物群衆の特徴を検討した.解析を行う箇所は,組織の観察結果と照らし合わせてチムニーの発達段階を網羅するよう,選定した.3)深海チムニーサイトでの湧水採集:過去の潜航調査では未達成であった,湧水試料の採集に成功した.4)27.4億年前のストロマトライト:平成27年度に調査とサンプリングを行った西オーストラリアピルバラ地域の27.4億年前のストロマトライトの組織観察とレーザーラマン顕微鏡による微細領域での鉱物組成マッピングを行った.
1: 当初の計画以上に進展している
化学合成細菌の関与が示唆されるストロマトライトは報告例はあるものの,その形成メカニズムの詳細は明らかにされていない.南部マリアナのしんかい湧水域で発達する炭酸塩・ブルーサイトチムニー内のストロマトライト組織は,その貴重なモダンアナログの一つといえる.しかし,湧水が未採集であったため,チムニーの鉱物組成,堆積組織,炭素同位体組成,現場での観察結果などを積み重ねることで,深海環境でストロマトライト組織を発達させうる条件を推定することができた.また,チムニーの発達過程の変化に応じて微生物群衆構造が変化している結果も得られた.さらに,平成28年度に行った調査航海では,湧水成分の採集に成功し,しんかい湧水域で生じる地球化学プロセスの解明のために必要なデータを着実に収集・取りまとめることができている.一方,西オーストラリアの太古代のストロマトライトでは,組織観察と局所分析を進め,続成を受けていない部位を分別することができている.以上のように,研究計画を着実に実行できていることから,上記の評価とした.
平成28年度の調査航海では,これまで未採集であったしんかい湧水域の湧水を採集することができた.今後は,湧水の化学成分の分析を進めるとともに,その結果とチムニーの発達過程や微生物群衆組成のバリエーションとの関連性を明らかにし,深海環境でストロマトライト組織を発達させうる鉱物・化学・微生物間相互作用を明らかにする.それと並行し,西オーストラリアの太古代ストロマトライト試料では,続成を受けていない部位を選別して微小領域での化学分析を進める.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
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