研究課題
地球内部における具体的な水の存在量とその循環はいまだ謎が多く、さまざまな研究が進められている。私は本課題において、含水鉱物に含まれる水が沈み込むプレートにより地球深部に運ばれる現象を興味を持ち、特にマントル深部への水輸送の担い手となりうる新しい含水鉱物phase H (MgSiO4H2) [Nishi et al., 2014]について研究している。本課題におけるマルチアンビル型高圧発生装置を用いた先進的な含水高圧実験技術により、phase HがFeやAlといった元素を容易に含むことが分かってきた。また、大型惑星深部を想定し、より高い圧力における含水鉱物の安定領域と相転移を探査することを目標として研究を進めている。結果として惑星内部の水の貯蔵に関わるパイライト型水酸化鉄を発見し、昨年度報告した[Nishi et al., 2017]。今年度はさらにアルミニウムに富む含水鉱物に着目した研究を推進した。マルチアンビル装置やダイヤモンドアンビル装置を用いた実験技術をさらに改良し、アルミニウムを主成分とする超高圧含水相を200万気圧の条件下で新たに発見した。この新しいイプシロン型水酸化アルミニウムは地球より大型の惑星内部の超高圧環境でも分解しないことが明らかとなった。また、イプシロン型水酸化鉄は前述したパイライト型水酸化鉄と固溶体を形成することも判明した。このことは、少なくとも太陽系の主要元素の多くは超高圧下で水と反応して含水鉱物として存在できることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
マルチアンビル型装置の高圧発生技術開発に関して、60万気圧を超える含水系の実験に成功し、圧力発生領域は拡張されたが、未だ当初目標としていた100万気圧までには到達していない。一方で、ダイヤモンドアンビルセルを相補的に使用することで、下部マントルにおける含水鉱物の化学組成や、その高圧相に関しての新たな知見が得られた。特にパイライト型FeOOHの発見は、先行研究との不整合により、その証明に困難を要したが、精密な実験と共同研究者による理論計算を組み合わせることにより確かなものであるという確証が得られた。さらに、270万気圧の条件下での実験からアルミニウムに富む新しい含水鉱物を発見するに至った。以上のことから、全体として当初の計画を上回る進歩があったと言える。
パイライト型含水鉱物の発見は地球以外の天体内部の水の存在形態に関する情報を提供する可能性がある。例えば氷惑星は水が主成分であり、その内部構造は、氷のマントルと岩石質の中心核からなるとされている。しかしながら、これらの氷惑星内部においても、温度と圧力の条件次第では、水素が含水鉱物として保存されるかもしれない。また、近年の観測技術の発展により次々と報告されている太陽系外惑星のスーパーアースにも、地球と同じく含水鉱物の沈み込みによるマントル深部への水の輸送が起こるかもしれない。上記のような研究背景をもとに、昨年度から、パイライト型含水鉱物のさらに高圧相転移に関する研究を開始している。申請者が発見したパイライト型AlOOHやFeOOHといった物質の高圧相転移を直接観察するような超高圧発生は現在の実験技術では難しい。したがって、アナログ物質としてInOOHを使用する。InOOHは20万気圧程度でパイライト型構造をとるため、100万気圧以下の条件で高圧相転移する可能性がある。InOOHの新構造が発見された場合、AlOOHやFeOOHの高圧相転移を理論計算により議論する。上記すべての実験は放射光施設SPrin g8で行う。同時に本年度はマルチアンビル装置を用いた実験にナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)を新たに導入し、圧力領域の拡張を目指すとともに多成分系でのパイライト型含水鉱物を合成する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
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