研究課題/領域番号 |
15H05472
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
富田 健太郎 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (70452729)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 協同トムソン散乱 / 平均イオン価数 / 電子密度 / 電子温度 / 軟X線光源 / レーザー生成プラズマ |
研究実績の概要 |
本研究で目的とする軟X線光源用プラズマの電子密度・電子温度・平均イオン価数診断システム開発のためには、レーザー生成プラズマに協同トムソン散乱を適用し、電子項スペクトルおよびイオン項スペクトルの同時計測が必要となる。今年度は同時計測が可能なシステムを構築し、その原理検証を行った。 計測対象としては、まずはレーザー生成空気ブレイクダウンプラズマを用いた。その理由は、トムソン散乱計測の障害となる迷光の問題が少ないからである。協同トムソン散乱における電子項およびイオン項は、それぞれ計測用レーザー(YAGレーザー第2経調波、波長532nm)からイオンおよび電子の熱速度程度の波長広がりを持って観測される。そのため両者のスペクトル広がりは大きく異なっており、それぞれに適した分光システムの構築が必要となった。申請者は、散乱光を途中で分岐し、一つのシステム内で異なる波長分解能を有する分光器を自作した。このシステムの原理検証は、最終的にはヘリウム雰囲気中レーザー生成ブレイクダウンプラズマでもって行った。実験の結果、電子項・イオン項の両スペクトルを同時に計測し、それぞれから電子温度、電子密度を決定することができた。生成したプラズマの温度は数eVと低く、平均イオン価数は1と推定できるので、イオン項のみで電子密度、電子温度の決定が可能となった。イオン項・電子項それぞれのスペクトルから独立に決定された電子密度、電子温度は互いによく一致した。以上により、電子項、イオン項の同時計測システムの原理検証実験を完了することができた。 さらに、現在は多価電離プラズマの計測を進めるため、キセノンガスを対象としたトムソン散乱計測を始めつつあり、初期的な結果を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初では、1年目(平成27年度)に、まずは低いイオン価数となるレーザー生成プラズマに対して、協同トムソン散乱の電子項およびイオン項の同時計測を実施し、2年目(平成28年度)に、多価電離プラズマの計測に移る予定であった。1年目の低イオン価数のプラズマを用いた、電子項・イオン項の同時計測原理検証実験は、レーザー生成空気プラズマのみを対象とする予定であった。しかし、計測結果から得られた電子密度・電子温度は、イオン項から決定された値と、電子項から決定された値で、互いに一致しないものとなった。多種の元素が含まれる、空気中で生成されるプラズマを対象としたために、この不一致が発生した可能性があった。そこでよりスペクトル解釈が容易な、希ガス(ヘリウム)を用いて、追加で実験を行った。ヘリウムプラズマを用いた場合、イオン項、電子項それぞれから独立に決定した電子密度・電子温度は互いによく一致した。空気プラズマの場合に、なぜ両スペクトルから得られた電子密度・電子温度が一致しなかったのか、その原因はまだ不明であるが、システムの動作確認という点では、ヘリウムプラズマを用いた計測により、一定の成果を収めることができた。 多価電離プラズマの場合、プラズマの自発光が増大し、トムソン散乱スペクトル、特に電子項は自発光に覆い隠される恐れがあった。そのため、当初の計画と順序が多少入れ替わるが、先に自発光の影響軽減を目的とした、誘導ブリルアン散乱による、計測レーザーパルス圧縮システムの構築を行った。このような作業により、実際に多価電離プラズマ(キセノンプラズマ)の計測は、平成28年度の後半に行うこととなったが、初期的なトムソン散乱信号を得ることができた。多価電離プラズマ計測を実施できているので、研究計画は順調に推移しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、平均イオン価数が10価程度以上のプラズマに対して、協同トムソン散乱の電子項・イオン項の両スペクトルを同時に計測する実験を、本格的に実施する。計測対象となる多価電離プラズマとしては、前年度(28年度)の後半から引き続き、レーザー生成キセノンプラズマである。大気圧程度のキセノンプラズマを真空チャンバーの封入し、そこにプラズマ生成用レーザーとして、YAGレーザー基本波(波長1064nm)を集光照射し、プラズマ生成を行う。しかしそこで生成されるプラズマの電子温度は、10eV以下と予想され、十分な多価電離は見込めない。そこで、別のYAGレーザー基本波によるプラズマ追加熱を行う。過去にはこの方法で、レーザー生成炭素プラズマの電子温度を、10eVから50eV程度まで変化させた実績がある(この時のプラズマ評価は、トムソン散乱のイオン項計測から行った)。キセノンプラズマに対するトムソン散乱計測は、あくまで目標とする軟X線光源用プラズマで予想されるプラズマパラメータ領域における電子項・イオン項同時計測のためであり、追加熱によるプラズマ状態の変化は、特に考慮しない。 イオン項スペクトルは、迷光の問題がないことが予想されるので、比較的容易に計測が進む予定である。一方電子項は、プラズマの自発光に対して微弱であることから、自発光に埋もれてしまう可能性がある。その対策として、計測レーザーのパルスを圧縮し、同時に検出器(ICCDカメラ)のゲート幅を狭める方法がある。すでに前年度までに、前倒ししてそのためのシステム構築準備を行った。自発光の影響の軽減を評価しつつ、電子項計測を進めていく。
|