当初の計画では疎水壁中の水の相転移に限定したが、より広い視点から疎水性相互作用が水の相転移に与える影響を調べた。H29年度は、高分子が水の結晶化へ与える影響についての研究を行なった。水にポリビニルアルコールを少量溶かすと、氷の結晶化温度が純水の均一核生成温度に比べ数度上昇することが実験的に示されている。ポリビニルアルコールがテンプレートとなり、その表面から結晶が成長する(不均一核生成)ことで結晶化温度を上げると考えられていた。しかし、ポリビニルアルコールは柔らかく、かつ 1 次元のテンプレートにしか成り得ない為、結晶化を促進する分子機構は明らかではない。我々はポリビニルアルコール水溶液中の水の結晶化を分子シミュレーションで再現し、結晶化におけるポリビニルアルコールの役割を調べた。その結果、不均一核生成ではなく均一核生成が起こっており、ポリビニルアルコールはテンプレートにはならないが、水の構造を不安定化し水のアクティビティを上げることで、結晶化を促進していることを明らかにした。さらに、レナードジョーンズポテンシャルの係数を変え疎水性を強めると、結晶化温度が上がる事がわかった。研究成果をJACS誌に発表した。
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