研究課題/領域番号 |
15H05476
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木村 哲就 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 特命講師 (70506906)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 時間分解計測 / ABCトランスポーター / 膜タンパク質 / タンパク質ダイナミクス / 赤外吸収分光法 / 可視吸収分光法 / 蛍光寿命測定 / マイクロデバイス |
研究実績の概要 |
ATPを利用して小分子を細胞膜の一方から他方へと輸送する膜タンパク質であるABCトランスポーターの輸送・構造ダイナミクス観察に新規に開発する時間分解計測系を適用し、①輸送を構成する化学反応の共役、②離合・集散を制御する分子間相互作用、③構造変化の連動性、を明らかにし、生体分子システムが分子や分子部分の連動・協奏・相互作用によって実現している高次機能の分子機構解明を目指す。本課題では①②に対応する4種類の実験1-1) ヘム輸送ダイナミクスを可視吸収分光計測、1-2) ATP結合/加水分解反応を赤外吸収分光計測、1-3) ABCトランスポーターのコンフォメーション変化を分子内FRET蛍光寿命計測、1-4) ABCトランスポートシステムの離合・集散ダイナミクスを分子間FRET蛍光寿命計測する。また、③に関しては2) ケージドATPを用いたシリアルフェムト秒X線結晶構造解析(SFX)によって明らかにする。 平成27年度は分子拡散型マイクロ流路ミキサーの新規設計・作製を行い、上記の1-3)、1-4) に利用する蛍光顕微鏡・蛍光寿命計測装置と、神戸大学で新たに構築した可視吸収分光装置1-1)への組み込みを行った。また1-2) 赤外吸収分光計測についてはケージドNOをモデル系として実験を行い、紫外レーザーによる光解離反応によって反応を駆動できる光励起系の構築に成功した。神戸大学への異動に伴うレーザーの移設は不可能であったため、理化学研究所久保稔専任研究員との共同研究という形で時間分解赤外分光計測を引き続き行っている。2)に関しては光励起系の構築に成功し、光反応サイクルを示す膜タンパク質についての時間分解SFX測定および微結晶での時間分解可視吸収スペクトル計測系の構築および測定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年10月に神戸大学への異動を行い、研究室の立ち上げに時間を要した。その中、神戸大学においてABCトランスポーターの新規発現・精製系の構築および最適化を行い、定常的に試料を獲得する実験系の構築に成功した。また、異動に伴う、蛍光顕微鏡・蛍光寿命計測装置の移設を行った。その後、分子拡散型マイクロ流路ミキサーの新規設計・作製を行い、上記の1-3)、1-4) に利用する蛍光顕微鏡・蛍光寿命計測装置と、神戸大学で新たに構築した可視吸収分光装置(1-1))への組み込みを行った。具体的な時間分解計測は平成28年度以降に引き続き行うことになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は立ち上げた装置の性能評価を金属膜タンパク質への基質配位反応およびその酵素反応の実時間観察によって評価する。その後、1-1)ヘム輸送ダイナミクスをヘムの吸収スペクトルに着目して、滴定実験を定常状態測定を行い、最適な実験条件を検討した上で、時間分解可視吸収分光計測を行う。 また、1-3)BhuUVのコンフォメーション変化を分子内FRET蛍光寿命計測によって観察する。そのためのABCトランスポーターの蛍光ラベル標識のプロトコルを確立する。 1-2) ATP結合/加水分解反応、ADP脱離を追跡するために最適な赤外吸収分光計測を実時間で行うためには、10um程度の回折限界まで集光可能なSPring-8 BL43IRの顕微赤外分光装置が必要であるが、ワーキングディスタンスが一般の顕微鏡と比べて非常に小さいためマイクロ流路ミキサーの再設計が必要であり、再設計・製作・組み込みを行う。 2)の時間分解SFX計測を行うための予備実験を行う。具体的にはケージド化合物を光解離させるための波長可変ナノ秒レーザーを用いた光励起系をSACLAの実験ハッチに組み込み、その性能評価を兼ねて、ケージドNOを用いた金属酵素の反応中間体構造解析を行う。
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