研究課題/領域番号 |
15H05478
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田代 省平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80420230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多孔性結晶 / 超分子 / 酵素 / ペプチド / X線回折 |
研究実績の概要 |
酵素タンパク質は、種々のアミノ酸側鎖を精密に空間配置することで触媒反応や電子輸送などの比類なき高次機能を実現している。本課題では、このような酵素の構造原理を超分子的アプローチによって模倣することにより、超分子酵素を創製することを目標として研究を進めた。具体的には、これまでに当研究室で開発した多孔性分子結晶Metal-macrocycle framework (MMF) を超分子酵素構築のための足場として活用し、MMFの結晶細孔内部でアミノ酸やペプチドを位置選択的に同時配列することを目指した。MMFの細孔壁面には10種類の異なる分子認識ポケットが鏡像異性体対として備わっており、この構造的特徴を活かすことによって、セリンやトリプトファンなどのアミノ酸を細孔内で位置選択的に配列化することに成功した。すなわち、これらのアミノ酸残基が分子配列のためのアンカーとして機能することが明らかとなった。またこれらのアンカーアミノ酸残基を含むペプチドをゲスト分子として用いたところ、MMF細孔内に同様に位置選択的に配列化できることを見出した。また金属酵素のモデル構造を構築することを目指し、種々の金属塩についても細孔内への導入を検討した。その結果、幾つかの金属塩を包接したMMF結晶に光照射を行ったところ、細孔内で還元反応が進むことが単結晶X線回折測定や紫外可視吸収スペクトル測定より示唆された。これらの結果から、MMF結晶細孔内はアミノ酸・ペプチドの分子配列場として機能するとともに、金属錯体の光反応場としても活用できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況については、多孔性分子結晶MMFの細孔内において位置選択的に配列するアンカーアミノ酸残基を見い出すことができたことから、超分子酵素の構築に向けた当初の予定通りの結果を得ることができたと考えている。実際にこれらアンカー残基を含むペプチドについても検討したところ、設計通りに分子配列させることができたため、次年度の研究計画に向けた重要な土台を築くことができた。加えて、金属酵素を指向した実験の中で、金属錯体がMMF細孔内で光還元されたことは予想外の結果であったが、還元反応は酵素反応においても重要な素反応の一つであることから、超分子酵素における反応場設計に向けた重要な結果を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに確立したMMF結晶細孔内へのアミノ酸・ペプチドの位置選択的配列に基づく触媒反応場の構築を目指す。例えばアミノ酸の配列化によって細孔内にカルボン酸が非対称に空間配置された構造を構築することができるため、この構造を基点として不斉酸触媒反応場を設計する。また、この際に同時配列させるアミノ酸・ペプチドを変更することによって細孔内の化学的環境を超分子的に調節し、反応選択性や反応効率を制御することを目指す。一方で、異種アミノ酸・ペプチドを同時配列させた構造を基点として、これらのアミノ酸残基間での高効率反応を設計することにより、MMF細孔内を反応場とした人工酵素反応を実現することも目標とする。
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