カーボンナノチューブの発見以来、多孔性材料としてのナノチューブはその内空間における分子吸着能だけではなく、その導電性や高い耐久性から、エレクトロニクスなどの将来的な機能性材料への応用が期待されている物質群である。本研究において申請者は金属錯体を使用した簡便なボトムアップ合成により生成する、多孔性金属錯体ナノチューブを基盤材料として、チューブの開口径/電子状態の制御による材料開発と機能発現を目指し、ボトムアップ合成による構造設計に基づく金属錯体ナノチューブの系統的な空間設計と電子状態制御を第一に掲げ、金属錯体ナノチューブが有する内空間に基づく高電子伝導性の発現や、ゲスト包接による太陽電池を志向した光活性層の創成等の機能性材料の開発を目指す。 研究最終年度であるH29年度は、多彩な内空間を持つ金属錯体ナノチューブの構築を目的として、柔軟なメチレン鎖を有する有機配位子からなる菱形白金環状錯体を基盤とした新規の2本鎖型金属錯体ナノチューブを合成し、そのX線結晶構造解析に成功した。また、水吸着組成等温線測定からは、有機配位子部分の柔軟性に起因すると見られる多段階のステップを伴う特異な水吸着挙動が観測され、水蒸気圧変化に伴う特異なX線回折パターンの変化が観測された。現在、各湿度下における結晶構造についてRietveld法から検討を行っている。さらに、交流インピーダンス測定から比較的高いプロトン伝導性を見出し、このナノチューブのプロトン伝導においてはヒドロニウムイオンの直接的な拡散(ビークル機構)が支配的になっていることが示唆された。
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