研究課題
生体中の金属酵素では、反応点となる金属錯体の周りに存在する反応場の構造・性質が高効率・高選択な物質変換反応の進行に重要な役割を果たすことが知られている。本申請課題では、相補的相互作用サイトを有する触媒ユニットを自己集積させることで、反応性超分子フレームワークを構築する。更に得られたフレームワークの結晶内空間と反応サイトを利用し、新規物質変換反応場の構築並びに反応の可視化が可能な錯体プラットフォームの創製を目指す。本年度の研究では、高い対称性と触媒活性サイトを有するパドルホイール型ロジウム2核錯体を用い、非共有結合性相互作用を用いた新たな構造体の構築ならびに得られた構造体の物性・反応性に関して研究を行った。まず、四重極子-四重極子相互作用によってπ-πスタッキングよりも強固な相互作用が発現することが知られている多点型アレーン‐パーフルオロアレーン(Ar-ArF)相互作用サイトを有するロジウム2核錯体Rh2(ppeb)4 (Hppeb=(4-[(perfluorophenyl)ethynyl]benzoic acid)を種々の条件において自己集合させたところ、望みの構造的特徴を有する超分子フレームワークが再現性良く構築可能であることが判明した。そこで、得られたフレームワークの反応性に関しても調査を行った。スチレンのシクロプロパン化反応と、(E)-2-ヘキセンと4-エチルトルエンへのC-H挿入反応を試みたところ、既報のRh錯体と同様な反応性を有することが示され、超分子フレームワークの不均一触媒としての反応性を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に示された本年度の研究目標は、「相補的相互作用サイト導入による反応性超分子錯体フレームワーク構築手法の確立」である。研究実績の概要に示した通り、本年度はロジウム2核錯体を触媒ユニットとして用い、望みの構造的特徴を有する錯体フレームワークの構築に成功し、更に超分子フレームワークが触媒活性を有することも見出している。すなわち、反応性超分子錯体フレームワーク構築手法の確立に向けた一定の知見は得られており、研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
超分子錯体フレームワークの反応性追跡に当たっては、フレームワークの細孔内部とフレームワーク表面での反応のいずれが進行しているかを正確に見極める必要がある。これまでに行った反応性の試験では、細孔内部・表面いずれでも反応が起きる可能性があり、またその両者の反応性を独立して解析することは難しいと考えられる。よって今後は、予め錯体の触媒活性サイトに反応の前駆体となりうる配位子を配位させた後にフレームワークを構築する。このように構築されたフレームワークの反応性を追跡することで細孔内の反応のみを抽出して理解することができる。活性サイトに配位させる化合物としてはトリアゾール誘導体を用いることを予定している。トリアゾールはジアゾ体との平衡にあり、熱によりその平衡をジアゾ側に偏らせることができるため、熱刺激による反応活性種の生成が見込める。また、Nドナー配位子として優先的に触媒活性サイトに配位可能であると考えられることがその理由である。次年度以降は、本年度に開発された手法を応用することで各種トリアゾール誘導体を活性サイトに配位させた超分子フレームワークの合成ならびに構造決定を速やかに行う。その後、得られたフレームワークの種々の反応に対する反応性を網羅的に調査したい。
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