前年度までにグアニジウム基や1級アミノ基などの対カチオンをカルボン酸含有のプロトンインプリントナノ粒子に導入することでカルボン酸のpKaを低下させることが出来ることが明らかとなっていた。また、重合時に溶液を酸性にしてカルボン酸をプロトン化させると同時に対カチオンを疎水性官能基で保護することでカルボン酸と対カチオンをナノ粒子中の疎水場に導入しカルボン酸のpKaをより大幅に低下させることが出来た。本年度は、重合時にNIPAmより疎水性のtert-butyl acrylamide(TBAm)を導入したり、架橋剤の導入量を変化することを試みた。その結果、TBAmや架橋剤の添加により重合時の疎水性環境が効率的に維持されて、カルボン酸のpKaがこれまでにないほど低下することがわかった。架橋剤を多く添加した場合は、温度を変化させたときの構造変化が抑制され、温度変化に応答したpKaの上昇は抑制される一方で、TBAmを添加した場合は、温度に応答して非常に大きなpKaの向上が観察された。これはプロトンポンプ等のタンパク質内で起こっている効果的な官能基のpKa変化を人工系で再現した最初の例の一つとして注目されている。 さらに、温度変化に応じたカルボン酸のpKa変化を量して温度差電池の開発を行った。ナノ粒子溶液に温度差を印加するとナノ粒子内のカルボン酸のpKa変化に応じたpH勾配を溶液中に形成可能であった。さらに、適切な酸化還元種を当該溶液に添加することで30~50℃程度の温度差で300mV近い電位差を生成可能であることが明らかとなった。
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