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2015 年度 実績報告書

大気圧硬X線光電子分光装置の開発と燃料電池電極触媒のオペランド測定

研究課題

研究課題/領域番号 15H05489
研究機関分子科学研究所

研究代表者

高木 康多  分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (30442982)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード光電子分光 / オペランド測定 / in situ測定 / 放射光
研究実績の概要

SPring-8のBL36XUにおいて、雰囲気制御型光電子分光(NAP-HAXPES)装置における測定時圧力を大気圧(100000Pa)まで上昇させるための装置の改造をおこなった。NAP-HAXPESの分光器は内部のガス圧力が上昇すると動作が不可能になるため、分光器内に大量のガスが侵入しないように試料と分光器の間に小径のアパーチャーを導入する必要がある。現状では直径300μmのアパーチャーを用いていたが、このサイズのアパーチャーでは試料雰囲気に3000Pa以上のガスを導入できなかった。そこで直径100μmのアパーチャーを用いたところ0.6気圧まで上昇させても分光器を動作できることが確認できた。さらに小径の直径50μmのアパーチャーを用いた場合には大気圧まで上昇させても分光器が動作可能であることが分かった。
これらを踏まえて100μm以下のアパーチャーを用いた光電子分光(XPS)測定に対応できるように装置を変更した。x線光源のサイズは20μm×20μmまで集光している。測定試料とアパーチャー間の距離(作動距離)を100μm以下にし、かつ、入射角を全反射角近傍に設定するために0.1度以下での制御が可能な、XYZおよび回転ステージを導入して試料を精密に制御する機構を備えた。加えてそれらの位置を正確に測定できるように長焦点距離のCCD顕微鏡を導入した。これらの機構が問題なく動作できるように装置の測定槽を新たに設計・作製し、現状の測定槽と入れ替えた。
これらの設備を整え、実際にガスを導入しながら金表面のXPS測定を行った。100μmのアパーチャーを用いた場合には0.3気圧までの測定に成功し、50μmのアパーチャーを用いると0.5気圧までの測定に成功した。他のグループでこの圧力下の光電子分光を達成したという報告はまだされておらず、本装置により世界最高の性能を達成することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画ではKBミラーを用いて光源を集光する予定であったが、それを用いなくても20μm×20μmまで光源を絞ることが可能となったためKBミラーの導入は見送り、その代わりにより精密な試料制御機構を導入することで目標を達成することにした。
その変更を考慮した上で、試料位置を1μm以下で動かし、かつ、試料角度を0.1度以下で制御できるような精密なXYZステージおよび回転ステージを導入した。加えてそれらの位置を10μm以下の分解能で正確に識別できるように、長焦点距離のCCD顕微鏡を真空槽に取り付けて試料の測定位置の制御に利用した。また、これらの機構が問題なく動作できるように装置の測定槽を新たに設計・作製し、従来の真空槽と交換した。それに伴い、真空計や湿度計など大気圧での測定に向けての計測器を導入し、それらの制御プログラムを新規に作成した。
新たな試料位置の制御機構および真空槽の導入はほぼ終了し、小径のアパーチャーを用いたガス導入時の光電子分光測定を行った。窒素ガスを導入し、低圧力状態から圧力を上昇させながら金表面の測定を行い、実際に信号が得られる上限の雰囲気圧力を同定した。100μmのアパーチャーを用いた場合には0.3気圧までのXPS測定に成功し、50μmのアパーチャーを用いて0.5気圧までのXPS測定に成功した。このように従来の3000Pa(0.03気圧)よりも大幅に測定時圧力を上昇させることが可能となり、最高で0.5気圧のガス圧下でのXPS測定を達成した。

今後の研究の推進方策

これまでの結果よりガス圧下でのXPS測定では、信号強度の減少には作動距離が大きく効いていることが判明した。最終目標である大気圧下でのXPS測定を達成するためには現状よりもさらに短い約30μm程度の作動距離にする必要があると考えられる。また測定の条件より、作動距離を短くするにはアパーチャーの直径も同様に小さくする必要があるため、現状の50μmよりもさらに小さい径のアパーチャーを用意する必要がある。
小径のアパーチャーを作製する方法は目処が付いており、集束イオンビーム(FIB)を用いた微細加工などにより作製する計画である。一方で、新たに導入した精密制御ステージは10μm以下の試料位置の制御が可能であるため、要求される作動距離に試料を配置することは十分に可能である。これらのことを踏まえ、小径のアパーチャーが作製できれば測定時圧力を大気圧まで上昇させることは十分に可能であると考えている。
一方、アパーチャーと試料表面が近づきすぎると表面近傍のガスがアパーチャーに吸い込まれ表面の実質的なガス圧が下がると言われている。アパーチャーの径と作動距離の双方に依存して試料表面の実質的なガス圧が決まるが、その適切な距離については作動距離を直径程度もしくは直径の2倍程度にする必要があるとの議論がある。よって雰囲気圧力を上昇させたときの表面近傍の実質的なガス圧力を見積もる必要があるため作動距離を変更したときのXPSの信号強度の変化も測定する予定である。
これらの測定を合わせ、総合的に解析しながら実質的な大気圧下での光電子分光測定を達成する予定である。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)

  • [雑誌論文] 雰囲気制御型硬X線光電子分光による固体燃料電池電極のその場観察2016

    • 著者名/発表者名
      高木康多
    • 雑誌名

      表面科学

      巻: 37 ページ: 14-18

    • DOI

      10.1380/jsssj.37.14

    • 査読あり
  • [学会発表] 雰囲気制御型硬X線光電子分光による燃料電池電極触媒の酸化状態の電圧依存性測定2016

    • 著者名/発表者名
      高木康多,中村高広,Yu Liwei, 上村洋平,関澤央輝,宇留賀朋哉,唯美津木,岩澤康裕,横山利彦
    • 学会等名
      日本化学会第96春季年会
    • 発表場所
      同志社大学 京田辺キャンパス(京都府京田辺市)
    • 年月日
      2016-03-24 – 2016-03-27
  • [学会発表] 雰囲気制御型硬X線光電子分光による燃料電池電極触媒の電圧依存性測定2016

    • 著者名/発表者名
      高木康多,中村高広,Yu Liwei, 上村洋平,関澤央輝,宇留賀朋哉,唯美津木,岩澤康裕,横山利彦
    • 学会等名
      第29回日本放射光学会年会
    • 発表場所
      柏の葉カンファレンスセンター(千葉県柏市)
    • 年月日
      2016-01-09 – 2016-01-11
  • [学会発表] In Situ Observation of Fuel Cell Electrodes by Near Ambient Pressure Hard X-ray photoelectron Spectroscopy2015

    • 著者名/発表者名
      Yasumasa Takagi, Heng Wang, Yohei Uemura, Takahiro Nakamura, Yu Liwei, Oki Sekizawa, Tomoya Uruga, Mizuki Tada, Yasuhiro Iwasawa, Toshihiko Yokoyama
    • 学会等名
      2nd Annual Ambient Pressure X-ray Photoelectron Spectroscopy Workshop
    • 発表場所
      Barkeley(USA)
    • 年月日
      2015-12-07 – 2015-12-09
    • 国際学会
  • [学会発表] 光電子分光によるオペランド計測2015

    • 著者名/発表者名
      高木康多
    • 学会等名
      2015年真空・表面科学合同講演会
    • 発表場所
      つくば国際会議場(茨城県つくば市)
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-03
    • 招待講演
  • [学会発表] 硬 X線分光法を用いたPt/C電極の酸化反応のその場観察2015

    • 著者名/発表者名
      高木康多
    • 学会等名
      第8回新電極触媒シンポジウム
    • 発表場所
      東レ総合研修センター(静岡県三島市)
    • 年月日
      2015-10-23 – 2015-10-24
    • 招待講演
  • [学会発表] 雰囲気制御型光電子分光装置による燃料電池電極触媒のin situ測定2015

    • 著者名/発表者名
      高木康多
    • 学会等名
      第7回岩澤コンファレンス
    • 発表場所
      千葉大学 西千葉キャンパス(千葉県千葉市)
    • 年月日
      2015-09-28 – 2015-09-29
    • 招待講演
  • [学会発表] 雰囲気制御型硬X線光電子分光装置による燃料電池電極触媒のin-situ測定2015

    • 著者名/発表者名
      高木康多,上村洋平,関澤央輝,宇留賀朋哉,唯美津木,岩澤康裕,横山利彦
    • 学会等名
      日本物理学会 2015年秋季大会
    • 発表場所
      関西大学 千里山キャンパス (大阪府吹田市)
    • 年月日
      2015-09-16 – 2015-09-19
  • [学会発表] In Situ Observation of Fuel Cell Electrodes by Near Ambient Pressure Hard X-ray photoelectron Spectroscopy2015

    • 著者名/発表者名
      Yasumasa Takagi, Heng Wang, Yohei Uemura, Oki Sekizawa, Tomoya Uruga, Mizuki Tada, Yasuhiro Iwasawa, Toshihiko Yokoyama
    • 学会等名
      12th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation
    • 発表場所
      New York (USA)
    • 年月日
      2015-07-06 – 2015-07-10
    • 国際学会
  • [学会発表] 雰囲気光電子分光実験 ~表面化学の改革!反応ガス中での触媒反応の進行を原子・分子レベルで直接視る!~2015

    • 著者名/発表者名
      高木康多
    • 学会等名
      日本表面科学会関東支部 第1回関東支部セミナー
    • 発表場所
      東京大学 本郷キャンパス(東京都文京区)
    • 年月日
      2015-05-22
    • 招待講演

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公開日: 2018-01-16  

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