タンパク質1分子の大きさはおおよそ5~10 nmである。一方で、研究代表者は一電子移動触媒を使ったラジカル反応を用いたタンパク質の共有結合形成反応(ラベル化)を見出している。また、前年度までの知見により、ラベル化に用いる低分子化合物(ラベル化剤)のラジカル種の安定性を制御することで、触媒からのラベル化の有効距離を数nm~数十nmで制御することが可能であることが示唆されていた。触媒から数nmの距離で完結する反応は、“タンパク質の部位特異的ラベル化”に応用でき、触媒から数十nm以上の有効距離によるラベル化は“タンパク質の会合状態を検出する方法”に発展できる。 最終年度である2018年度では1)触媒からごく近接した空間(< 2nm)で選択的に起きるラベル化反応の応用、と2)触媒から数十nmの空間で起きるラベル化反応の応用を研究し、以下の成果を得るに至った。 1)触媒周辺のチロシン残基と共有結合を形成するラベル化剤を2018年度開始までに見出していた。触媒とリガンドを担持した磁気ビーズを作成し、ビーズ表面から数nmの局所空間で選択的にタンパク質のチロシン残基を修飾する手法を開発し、一過性の分子認識の解析、抗体の部位特異的修飾に成功した。 2)触媒から数十nm広範囲の環境をラベル化できる手法を開発した。Horseradish peroxidase (HRP)を触媒して、その周辺数十nmの範囲で有効なラベル化反応を活用することで、HRP共役型の抗体によるレポーターシグナルの増幅に成功した。 本研究課題ではラジカル反応による触媒的なタンパク質ラベル化と、ラジカル種の安定性制御による触媒周辺の反応空間制御という新しい概念を提唱することができたと考えている。今後の発展により、タンパク質部位特異的修飾、タンパク質によるリガンド認識、タンパク質間相互作用の解析における有用な手法論への発展が期待できる。
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