研究課題
遺伝子配列の1塩基レベルの違い(1塩基多型)は、発現するタンパク質のアミノ酸配列の差(=機能の差)となり、様々な個体差(顔・形・疾患のかかりやすさ・薬剤感受性などの違い)や遺伝性疾患を引き起こす。この様な1塩基多型と生体機能との相関は、続々と明らかにされており、高度にデータベース化されてきている。これらの情報を基に、タンパク質のアミノ酸配列を自在に変更できれば、タンパク質が担う様々な生体機能を制御することが可能である。これは、現時点で考えうる究極の生体機能制御法の一つである。その実現に向けた新手法として、本申請では「翻訳段階における遺伝情報変換」の開発を目指した。具体的には、翻訳の正確性を変化させる化合物に着目した。アミノグリコシド(AG)は、リボソームに結合して翻訳の正確性を低下させ、mRNAのコドン情報と異なるアミノ酸を取り込ませることで抗生作用を示す。この仕組みが標的コドンに対して働くと、本来とは異なるアミノ酸が取り込まれ、コドン変換が起こる。ただし、AGの作用は標的コドンに対して特異的に起こるのではないため、ランダムに変異の入ったタンパク質が合成される。従って、効果の強いAGほど細胞毒性も強い。また、十分な効果を得るためには高い投与量が必要で、これが副作用(腎毒性、耳毒性)の原因となっている。このような背景から、本年度はAGの代替となる分子の探索を行った。蛍光偏光法を用いた高スループットなスクリーニング系を構築し、AG代替分子の探索を行ったところ、新規骨格を有するヒット化合物が得られた。この分子は大腸菌リボソームの翻訳阻害活性を示したことから、新規抗生剤としての応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた研究計画に加え、新規抗生剤候補分子の発見という副次的な研究成果が得られている。
誤翻訳の過程で何のアミノ酸が取り込まれるかは、古くから調べられている。天然(アミノグリコシドの非存在下)にわずかに起こる誤翻訳は、コドンの3番目の塩基との間にミスマッチを持つ near cognateと呼ばれるアンチコドンが入る場合が殆どである。これに対し、アミノグリコシド存在下ではnear cognateに限らず1塩基もしくは2塩基のミスマッチを持つ様々なアンチコドンが入る。また、どの様なアミノ酸が導入されるかはアミノグリコシドの種類によって大きく異なる。例えば、パロモマイシンの場合にはnear cognateが多いのに対し、GentamycinではUUUをUAU、またCCCをCAC・ACC・CUC・UCCへ読替えることが知られている。これらのことから、AGの種類を選択することで標的コドンへ望みのアミノ酸を導入できる。本項目では、アミノグリコシド-オリゴ核酸連結分子の存在下で各コドンに取り込まれるアミノ酸を、主に質量分析を用いて解析し、変換可能なコドン-アミノ酸の対照表を作成する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件)
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