研究課題
本研究は自立型水分解用光触媒反応系として,堂免・嶺岸研究室で開発された粒子転写法を応用し,水素生成光触媒と酸素生成光触媒が導電層に固定化された光触媒シートを作製し,その太陽光水素エネルギー変換効率(STH)を向上させることを目指している.平成27年度において、SrTiO3:La,RhとBiVO4:Moが真空蒸着で製膜した金薄膜に固定化された光触媒シートが10 kPaの減圧下での水分解反応において1.1%の太陽光水素エネルギー変換効率(STH)を達成した.しかし,常圧ではSTHが1割程度に低下するという課題があった.平成28年度は人工光合成化学プロセス技術研究組合らと共同で炭素薄膜を導電層とする光触媒シートを開発し,常圧下で1.0%のSTHを維持することに成功した.上記研究の過程で,金薄膜を導電層とする光触媒シート上では,酸素還元反応が進行するために常圧下での活性が低下することを,無酸素雰囲気下でのメタノール水溶液からの水素生成活性の圧力依存性や,電気化学的な酸素還元反応活性の評価結果から明らかにした.そこで,金薄膜と同程度に大きな仕事関数を持つ一方で,酸素還元反応に対する活性が低い炭素材料を導電層とする光触媒シートの開発を行った.スパッタリング法で製膜した炭素を導電層とする光触媒シートは,減圧下において金薄膜を用いた場合と同程度に高い水分解反応活性を示した.そのうえ,常圧付近においても高い活性をある程度維持することができた.さらに,酸素還元反応を抑制可能な表面修飾を行うことで,活性の圧力依存性をいっそう抑制することが可能となった.現状,光触媒シートに用いている光触媒は酸化物であり,吸収端波長が520 nm程度と比較的短い.また,導電層の製膜には真空蒸着やスパッタリングなどの真空プロセスを用いている.今後,長波長応答材料や塗布プロセスを応用していくことが課題である.
2: おおむね順調に進展している
SrTiO3:La,RhとBiVO4:Moを炭素薄膜に固定化することで,常圧下で1%のSTHを維持することが可能な光触媒シートを作製することができた.開発の過程で,水分解活性の圧力依存性の要因を検証することができた.また,予備的な研究において,600 nmよりも長波長側に吸収端波長を有する酸硫化物光触媒を用いて粉末懸濁液あるいはシートを用いて水を可視光照射下で水素と酸素に分解することができた.また,流通式水分解活性評価装置が完成し,粉末光触媒の水分解活性及び安定性と反応条件の関係の検討に使用している.これらのことから,STHの向上,水分解活性に影響を与える要因の検討,吸収端波長の長波長化,研究を円滑に進めるための手法の開発の各点において研究が順調に進捗していると評価した.
平成28年度までの成果を踏まえ,光触媒シートの高活性化と作製プロセスの改良を目指す.水素生成触媒としてSrTiO3:La,Rh,酸素生成光触媒としてBiVO4:Moを用いた系においては,導電層として炭素ペーストを用い,大気中プロセスのみからなる全塗布型の光触媒シートの作製を活性化を目指す.炭素材料を用いることで酸素還元反応が抑制されることは確認済みである.したがって,光触媒粒子と炭素塗布膜の間の接触抵抗や光触媒粒子の積層状態の制御が重要な課題と予想され,塗布条件を詳細に検討する予定である.また,還元型酸化グラフェンの添加により光触媒粒子の複合化が容易になることが知られており,炭素系材料の添加による接触抵抗の低減を試みる.並行して,従来の酸化物光触媒よりも長波長応答可能な(酸)窒化物・(酸)硫化物からなる光触媒シートを作製し,太陽エネルギーの効果的な利用を目指す.水素生成光触媒としてLa5Ti2(Cu.Ag)(S,Se)5O7,酸素生成光触媒としてはBaTaO2N,Ta3N5,LaTiO2Nをベースとした光触媒材料を中心に,粉末,電極,シートの各観点から研究を進める.非酸化物光触媒材料の応用には安定性の向上が必要であると予想されるため,表面保護層の検討を予定している.研究が順調であれば,全塗布プロセスによる光触媒シート作製と知見を融合する.さらに,水分解反応条件が光触媒の活性や耐久性に及ぼす影響を流通式光触媒活性評価装置を用いて検討する.大気圧下でも高活性なAlドープSrTiO3に対して,各種助触媒が共担持された試料を用いて基礎的な知見を得た後,可視光照射下で常圧駆動可能な光触媒シートの検討に移行する予定である.
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